不透明な男
第10章 視線
そろそろ時間だな…
検査室ってどこだっけ
ウロウロしていた俺は声を掛けられた。
婦「あら、大野くん。今日はどうしたの?」
ん?婦長も知らないのか?
智「あ、婦長さん。お久し振りです」
婦「こんな所で何してるの?」
この婦長も翔と同様、俺の病院スケジュールを把握していた。
その婦長も、今日はどうしたの?なんて聞いてくる。
智「や、検査室ってどこだっけ」
婦「検査室?」
何故そんな所に?と首を傾げる婦長の顔を見ると少し不安になった。
よく考えれば可笑しな話だ。
いくら予約をしているからと言っても受付も通さず、時間通りに検査室に着けば良いだけなんてのはヘンだ。
それに、翔もこの婦長もそんな話は知らないと言う。
智「……婦長さん、15分後って、何してる?」
婦「多分、ステーションに居ると思うけど?」
智「あ、じゃあ、ひとつお願い聞いて貰っていいですか…?」
大野くんの頼みなら喜んで、と婦長は俺の頼みを二つ返事で聞いてくれた。
コンコン
医「どうぞ」
智「失礼します」
俺の顔を見るなりニヤッと口の端が上がった。
どう見ても気持ち悪い。
智「あの、今日の検査って一体なんの…」
医「ああ、取り合えず診察から始めようか。ボタン外すよ…」
自分で出来ますからと医者の手を制すると、嫌な気持ちを押さえながらボタンを外した。
その、ボタンを外す俺の手元を医者は目を逸らす事無く見つめていた。
智「あ、あんまり見ないで下さい」
医「ふ…、恥ずかしいのかな?」
なんだこの医者
気持ち悪いなんてモンじゃねえぞ…
こんな医者、今すぐにでもブン殴って部屋を飛び出す事も余裕だった。
だけど、何か見た事があるんだ。
この医者を知っている様な気がしてならなかった俺は、逃げずに確かめようと思ったんだ。