不透明な男
第10章 視線
智「ありがと、婦長さん」
俺はニコッと微笑むと、手渡された暖かいおしぼりでアイツに舐め回された身体を拭いていた。
婦「いいのよそんな事。それより大丈夫なの?」
智「うん、婦長さんが来てくれたから。よだれがベトベトで気持ち悪いだけで済んだ(笑)」
婦「……あなたは不思議な子ね」
ん?と婦長を見る俺に安心した様な顔を見せ、ひと息吐いた。
婦「何故、私をあの場所へやったの?こうなる事、分かってたんじゃない…?」
俺は、婦長に頼み事をした。
婦長に確認すると、俺が指定された部屋は今はもう使われていない古い検査室だった。
その場所に、15分後きっちりに来てくれ。ノックはしなくていいから何も言わずに部屋に入って来てくれ。
あ、鍵も忘れずにね。もしかして鍵が掛かっているかもしれないから、と。
婦「おかしな頼みをするわねと思っていたけれど…」
智「ふふ…」
そんな事より、あの医者はどうなるの?と聞く俺に婦長は諦めた様な顔をし、話す。
婦「医師会の協議に掛けてからになるけど…。万が一懲戒免職が無いとしても、もう雇ってくれる病院は無いでしょうね。免許剥奪したも同じ事よ」
智「そっか」
ふふっと笑う俺を婦長は不思議そうに見る。
婦「なんだか嬉しそうね?」
智「んふ、そう?」
そりゃ嬉しいさ。
だってアイツのせいで東山先生は医者でいられなくなったんだ。
18歳の時、入院先にアイツはいた。
東山先生よりも少し先輩の医者で、腕は全くなのに凄く偉そうだった。
俺に興味を示したアイツは、診察だと称し何かと俺に悪戯をして来た。
そんなある日、俺はベッドに貼り付けられ、とうとう身ぐるみを剥がされそうになっていたんだ。