不透明な男
第10章 視線
智『え、ちょ、な、なに』
医『どうも分からないからね。全身きちんと診察しないとね』
智『や、でもこれ…、え、なんかおかしくない…』
少し抵抗を試みた非力な18歳の少年を医者は押さえ付ける。
ちょっと、やめてよと医者の下でもがく俺は、いつの間にか下着一枚残して服を剥ぎ取られていた。
医『ああ…、なんて可愛い…』
肌が白くて陶器みたいだ、しなやかでとても美しいよと俺の両手を片手で押さえ付け、もう一方の手で肌を撫で回してきた。
この時の俺は本気でびびっていた。
涙目は今の様に偽者ではなく、本物だった。
何をされているんだろう、俺は、何をされちゃうんだろうと恐怖で声が上擦る。
智『や、やめて…、せんせ…っ』
その時、個室のドアが開いたんだ。
東『…何してるんだ!』
東山先生が来てくれたお陰で俺は助かった。
俺は東山先生になついていた。
何も分からず親も出て来ない俺を哀れに思ったのか、東山先生はとても親身になって俺の事を見守ってくれていた。
あの医者だって親切だったんだ。
凄く優しくしてくれていた。
なにか、少しヘンな所があるなとは思っていたが、いつも優しくしてくれているあの医者の事を警戒する様な事はしなかったんだ。
それを不安に思った東山先生は、あの医者の行動を見ていたらしい。
それで、乗り込んできた。
智『東山先生…っ』
俺は涙目で東山先生の方を振り向いた。
東山先生は、あの医者の下から俺を奪い取ると俺を大事に抱えた。
東山先生は怒っていた。
だって、こめかみに血管が浮いていた。
こんなに怖い顔をする場面を見た事が無かったんだ。
あれから医師会に掛けて処分する筈だった変態医師は、裏の手を使ったんだ。
腕のイマイチな変態野郎は何かと問題を起こしていた。
それをその都度揉み消していたが、それを公にしてきたんだ。
それも全て、東山先生のせいにして…。
あの医者は東山先生の事を良く思っていなかった。
成績優秀だし、上層部や患者からの信頼も厚い。
しかも俺はすこぶるなついているときた。
妬んでいたんだ。
医師会の協議には東山先生が掛けられた。
それで、医師免許を奪われたんだ。