不透明な男
第10章 視線
翔「大変でしたね…、大丈夫でしたか?」
翔は眉間に皺を寄せ、悔しそうな目で俺を見つめていた。
智「うん、婦長さんが来てくれたから無事だったよ」
少し早めのランチを取ると言う翔とカフェで話す。
翔「何で婦長だったんです?相手の医師は男性だし、逆ギレでもされたらどうするつもりだったんですか」
絶対俺の方が良かったのに、なんてブツブツ言う翔には言えなかった。
だって所詮は研修医、絶対的に権力なんてのは無い。
確実に問題にしてもらう為には婦長の方が好都合だったんだ。
智「たまたまだよ。婦長さんにばったり会ったから」
翔「今、目泳いでませんでした…?」
智「んふふ」
貴方僕の事しょぼいと思ってるでしょう、と翔はプリプリする。
翔「でも何故されるがままになったんです?大野さんならあんなの…」
智「え?」
俺は翔の前では力なんて出した事は無かった。
酔っぱらっちゃふらふら、何かを見てはブッ倒れ、あげく怖いと泣いた。
智「おれならあんなの…、なに?」
翔「あ、ああ、いえ何でも」
智「ふうん…?」
翔は今、何を言いかけた?
少しヘンな感じがしたが、とりあえず今は流す。
智「そりゃおれだって抵抗くらいするよ?でもね?急だとさ…、やっぱびびっちゃうじゃん(笑)」
翔「だからこの間も、僕にされるがままになってたんですか…?」
智「え…」
なんだよコイツ
覚えてたのかよ…
翔のくせに知らない振りなんてしやがって、生意気なんだよ、と心で悪態をついた。
智「え?この間って?オーナーの所で呑んだ日の事?」
されるがままってなあに?なんかあったっけ?と俺はすっ惚ける。
翔「あれ…、だって、家に運んでくれたのって確か、大野さんですよね?」
智「それはそうだけど」
翔「ですよね、オーナーに聞いたんだから当たってますよね。あ、てかその節はどうも有り難うございました」
首を傾げながら翔は俺に礼を言った。
オーナーに聞かなきゃ分かんなかったって事か
だったらイケるな
やっぱ翔はチョロいな。
単純な奴は大好きだと思いながら俺は微笑んだ。