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不透明な男

第10章 視線


智「おれ、キスなんてされてないよ?」

翔「は…」


訳が分からないといった表情で翔は俺を見てくる。


智「夢でも見たんじゃないの?」

翔「え、夢…?」


え、だって家に送ってくれたでしょ、そんでベッドに横になって、落ちて、ええとそれから…、と翔は必死に思い出そうとしている。


智「そんで、気持ち良さそうに寝てたじゃん」

翔「あれ…、だって僕、起きませんでした…?」

智「だから夢でしょ」


いや、凄くリアルだったんだ、だってあの時の貴方の体温を覚えている、あの感覚は本物だったと、翔は続けた。


智「本物ってなんでわかるの」

翔「だってこの間見た夢のキスとは違った…」

智「は?」

翔「あっ、いえ!」



マジで俺と夢の中でキスしてたんかい

いつ見たんだそれ



智「翔くんやらし…」

翔「や、いやいや!そっ、それに!」

智「うん?」

翔「貴方が泣いてた、あの時のキスと同じ感じがしたので…」

智「…え?」


今度は俺が本気でキョトンとした。


智「え、何それ…。いつの話…?」


翔は、しまった、という顔をした。


智「翔くん、教えて?」

翔「…貴方は夢だと思ったみたいですが、本当は」


翔は廃墟に携帯を探しに行った日の事を話した。
激しい頭痛に襲われ倒れた俺は、翔の暖かい腕の中で目を覚ました。

その間に起こった出来事。

あの気持ちの良い感覚は夢だったのだと思っていた。
だけど、夢じゃなかったみたいだ。


智「なんだよそれ…、何で教えてくれなかったの」

翔「や、なんかタイミングを逃してしまいまして…」

智「…そんな事秘密にしてるから、えっろい夢見るんだよ」

翔「えっ」

智「夢の中で俺にキスしたんでしょ?一体どんなふうにキスしたんだよ…」


俺は恥ずかしかったんだ。
泣き顔を見られただけじゃなく、翔にすがったんだ。
翔のキスで癒されてたのに、そんな事知らなかった。

俺の見られたくない姿を、翔は見ていたんだと思うと恥ずかしくて堪らなかった。

だから、つい、虐めたくなったんだ。


智「夢の中の俺はどんなだった…?」

翔「え、いや…」

智「俺は気持ち良さそうにしてた?」




翔は顔を紅くし、更に目を丸くしながら俺を見た。




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