不透明な男
第10章 視線
智「せんせー」
東「お、いらっしゃい」
智「んふ、久し振り」
どうした何かいい事でもあったのか?と東山先生は俺の顔を覗き込んだ。
智「んふふふ」
東「なんだ、どうしたんだよ(笑)」
智「あの変態野郎見つけちゃった」
あ?変態野郎?と東山先生は首を傾げる。
東「変態野郎なんてお前の周りにはゴマンといるだろ」
智「んもー、だから、アイツだよ。病院のさ」
東「ああ…、アイツか」
智「やっつけてきたから」
東「は?」
どういう事だ、まさか手を出したんじゃ無いだろうなと東山先生は俺の拳を掴む。
智「違うよ。俺が手を出されそうになったの」
東「なんだと」
大丈夫なのか?と今度は俺の頬をさわる。
智「本当に心配性だな…(笑) じゃなくて、エロい方の手ね」
東「はあ?アイツまだそんな事してるのか!」
智「や、だから…」
心配してくれるのは嬉しいけど、過ぎるのも困ったなと俺は少し飽きれ顔で今日の出来事を話した。
東「そうか…。しかしお前、そんな危ない事するんじゃない」
智「大丈夫だよ。おれ、体鍛えたの知ってるでしょ」
東「それはそうだがアイツは頭がおかしい。どんな行動に出るか分からないだろ」
智「だって腹が立ったんだ。東山先生から医者の名を奪っておいて、アイツは豪華な病院に移動してのうのうと医者をやってたんだ。許せなかったんだよ」
俺はあの変態野郎がどうしても許せなかった。
なんなら一発殴ってやりたい所だったがなんとか我慢した。
それくらい腹が立ってたんだ。
智「ごめんね先生。おれのせいで…」
東「大野…、お前のせいじゃないよ。ありがとな…」
ふふっと東山先生は笑った。
なんだか泣きそうになっていた俺も、釣られて笑顔になった。
東「お前の泣き顔に弱いんだから、泣くんじゃない」
智「ふふっ、なんでわかったの」
そりゃわかるだろう、俺はお前の親みたいなもんだからな、と東山先生は言った。
智「先生、ありがと…」
ありがとうなんて何度言っても言い足りない。
それくらい、俺は東山先生に見守ってもらってるんだ。