不透明な男
第10章 視線
智「それはそうとさ」
東「なんだ?」
ちょっと気になる事があった。
もしかしたら東山先生に相談してたかもしれないと、俺は話を切り出した。
智「おれ、誰かから逃げてなかった?」
東「え?」
智「ストーカーみたいなの、いなかったっけ?」
ああ、あの事かと東山先生は手をポンと叩いた。
智「おれ、誰から逃げてたの?」
東「それは分からないよ。お前だって誰だかわかんないって言ってたんだから」
そうなのか、知らない奴なのかと俺は困った顔をした。
智「それいつから?俺が倒れる1ヶ月前とかじゃない?」
東「お前がその話をしたのはそれくらいだが、そいつはもっと前から存在してたらしいぞ?」
智「は?どういうこと?俺の知らない奴じゃないの?」
東「ああ、知らない」
智「なのに存在は知ってたの?」
東「お前の話からすると、そういう事になるな」
はい?全くわかんないんですけどと俺は東山先生を見つめた。
東「そんな顔するな。俺だってよく分からなかったんだから(笑)」
もっとちゃんと説明しとけよ俺のバカ。
東山先生が理解出来ないなんてよっぽどだぞ。
智「はあ…、おれ、自分が情けないよ」
そんなの今に始まった事じゃない、俺は毎日大変だったんだぞと東山先生は笑った。
情けなさそうに釣られて笑う俺の顔を見ると、東山先生は口を開いた。
東「で、なんでまた急にそんな事を?」
何かあったのかと、せっかく笑顔になった東山先生はまた俺の心配をする。
智「ほらまたそんな顔して…。大丈夫だよ、なんもない」
東「だけどお前…」
智「ただ、ちょっと気になってたんだよ。おれ、倒れる1ヶ月くらい前から家に帰ってなかったらしいから」
東「え?」
あれ?
この事は先生も知らなかったのか
おれは一体どこまで話してどこから隠してたんだ…
家に帰ってないなら何処で寝てたんだ、そうだ、東山先生の所だろう、俺が頼ると言えば東山先生に決まってるきっとそうだ、と俺は確信を持って話したんだ。
なのに先生は、俺が家に帰っていない事を知らなかった。
…だったら俺は何処にいた?