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不透明な男

第10章 視線


はだけたジャケットを翻し俺は駆け出す。


柵に手を付きヒラッと宙を舞うともう一方の手で外されたズボンのファスナーを上げた。


智「二人組の男がそちらの方角へ」

A『了解、既に向かってる』


首に引っ掛けた小さなマイクに向かって話す。


前からやって来たAとBに阻まれ二人組の男は引き返そうとするが、足音を殺して素早く着いてきた俺は既に真後ろにいた。


「くそ…」


俺を振り払って逃げようとしても無駄だ。

俺は社長を守っている。
それはもう必死で。

俺が放っておいても社長はいつか誰かに殺られるかもしれない。
今まで色んな悪事を働き悪い噂も絶えない。
恨んでいる奴なんて大勢いるだろう。

だけど、お前らなんかに社長は渡さない。

無事でいてくれなきゃ困るんだ。


まだ、俺には分からない事があるんだよ。

それを聞くまでは勝手に死んでもらっちゃ困るんだ。






智「ふぅ……」

A「なんなんだコイツら。昼間の奴とは関係無いみたいだな」

B「全くどれだけ敵がいるんだか…。社長にも困ったもんだ」


おいお前らコイツら連れてけと、Aはムキムキの狼紳士とオネェに顎で指図した。


A「…で、どうしたんだその格好」

智「え?」



……あ、やば



俺は完全に乱れていた。

さっきの二人組にやられた訳では無い。
多少掴み合いにこそなったが、そんな手はすぐに叩き落として捻り上げた。

ネクタイは何処かへ行きジャケットは全開、シャツもはだけた上にベルトは外れてファスナーが辛うじて上がっているだけだった。

これは紛れもなく狼紳士とオネェの仕業だ。


智「や、ちょっと…。と言うか、早かったですね。あんな遠くから二人組の男に気付いてたんですか?」


俺は身だしなみを整えながら、流石ですねなんて話を逸らしてみる。


A「そんなの見える訳無いだろう」

智「じゃあどうして…」

B「マイク切り忘れてたろ?…全部聞こえてたんだよ」

智「!」


え、一体何処から聞こえてたんだ、と一瞬俺は固まった。


A「だからお前もコッチに来いと言ったのに…」

智「ど、何処から聞いてたんですか…」

B「困った様な可愛い声が聞こえてたぞ?」



マジか

最悪だな…



余計に煽ってしまったんじゃ無かろうかと俺は溜め息をついた。



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