不透明な男
第10章 視線
社「随分活躍した様だな成瀬」
休む前のガウンを羽織った社長に呼ばれた。
智「いえ…、あの、社長」
社「なんだ?」
智「先程の二人組、銃を所持していたと思うのですが、あれは…?」
社「ああ…。お前も知っているとは思うが、敵が多くてね」
社長は笑いながら言う。
社「だから、お前の様な有能な奴が居てくれて助かってるんだ。成瀬、有難う」
智「いえ、そんな…」
社「只、敵も結構手強くてな…。お前の事が心配だ」
生暖かい手で俺の背中を撫でてくる社長は、少し呼吸が荒くなっている様に思えた。
そのまま俺の手を掴み、親指で俺の拳を撫でる。
社「綺麗な手を傷付けてしまったな」
智「僕は大丈夫ですよ…」
鳥肌が立ちそうになるのを気力で抑える。
奥歯を噛み締めると、首の筋が浮き上がった。
社「これは…?」
ネクタイを引き抜かれた時に擦ったのだろう。
少し首元が赤くなっていた。
智「少し引っ掻いただけですよ。そんなに心配しないで下さい」
俺はふふっと笑うと、俺の首に伸ばされた手を制した。
智「さ、そろそろ休んで下さい。体が冷えますよ」
俺は社長の背に手を添えベッドに促す。
俺が布団を捲り社長が横になると、またその布団を社長にしっかり掛けた。
智「それでは…」
社「成瀬」
布団から手を離そうとした俺の腕を社長が不意に掴む。
そのまま俺は、布団に入ったままの社長の懐へと引き寄せられた。
智「…僕、汗臭いでしょう?」
社「よく働いた証拠だ」
智「ふふ、有難うございます」
俺はふわっと笑うと、背に回された社長の腕をそっと外した。
智「それでは、おやすみなさい」
社「…ああ、おやすみ」
俺はドキドキしていた。
恥ずかしいとか困ったとかそんなんじゃ無い。
嫌な汗をかかない様にと緊張で強張った体が、社長に伝わってしまうんじゃないかと心臓が震えたんだ。
まだバレる訳にはいかない。