
不透明な男
第10章 視線
じんわりと汗が滲んできた。
智「っ、こ、これ、外して…。着替え、これしか…」
顔を火照らせ潤んだ瞳をAに向け、吐息を吐きながら俺は懇願した。
俺の身体から力が抜けている事を悟ると、Aはカチャカチャと縛られている俺の手首を解放した。
ブンッ
俺の拳は空を斬った。
避けられ空振りに終わった拳をAが掴み押さえ込む。
A「油断大敵だな…」
智「ふふ、さすが先輩ですね…」
B「当たり前だろ。誰が教育してやったと思ってんだ」
A「お前が言うな」
Aは俺の教育係だった。
体も出来てるし力は強いし何よりキレが凄かった。
今の力が充分に入らない状態では、拳なんて当たる事はまず無かった。
それを分かっていながらも拳を振りかざした。
それは、俺の抗議を知らせる為だった。
俺がこうなる事を望んでいると思われたらそれはもう最悪だ。
だから、抗議を知らしめたんだ。
A「俺に刃向かった事、後悔させてやるよ」
智「ふふ」
キラリと光らせた目をAは俺に向けた。
俺は負けじと対向するかの様にAを睨み付ける。
A「ああ、その瞳だよ…。生意気そうな、その顔が煽るんだよな…」
やべえ
こいつ、ドSだった。
しまった、逆に煽ってしまったかと少し焦りの表情が出てしまった。
A「はは…、可愛いな…」
余裕の笑みを浮かべてやがる。
ちくしょう、ムカつくなコイツ。
てかお前もずっと何やってんだ。
そろそろ離せよと、足でBの股間を押し潰した。
B「んぅっ」
智「いい加減俺から離れろよ」
B「んぁっ…」
智「…ん?」
A「悪いなこいつ…」
そうだ、ドMだった。
なんなんだコイツら。
どう対応するのが正解なんだよ?
もうこうなりゃヤケクソだ。
成瀬領?んなもん知るか。
そんな芝居してられるかってんだ。
Aに押さえ付けられ見下ろされる。
Bはなんか知らんが俺の下半身を握り締めながら悶えている。
なかなかデカい男二人だから、敵わない事は承知の上だ。
俺は、覚悟を決めたと同時に暴れ倒してやった。
