
不透明な男
第10章 視線
二日間に渡った秘密裏の会合はなんとか無事に終わった。
すれ違うホテルマンも特別ヘンな目で見てくる事は無かったし、昨夜のホテルマンには会わなかったんだと思う。
AとBはと言うと、仮眠を取れずに疲れているかと思いきや、そんな素振りは見せずに普通に任務に就いていた。
只、俺を見る目が少し変わった様に思うが。
バカ野郎が大バカ野郎になった感じだ。
とにかくアイツらのせいで、俺は何も探る事は出来なかった。
そもそもここはホテルだし、探る様な物も無かったのかもしれないが。
只、アイツらのせいで、とか言いながらも少しホッとしている自分もいた。
俺は情けない奴だ。
この期に及んで尚も尻込みしている。
智「お前は気を付けろって…、あれ、どういう意味なんです?」
A「あ?ああ…。ま、ここじゃなんだからな」
B「また後で教えてやるよ」
智「…もう結構です」
なんだ、またクールな成瀬に戻っちまったのかとコイツらは残念そうな顔をした。
だが、これはこれでそのクールな顔を歪めたい衝動に駈られるんだよな~なんてバカ二人で同意していた。
もう二度とごめんだ。
A「そんな顔をするな。スッキリしただろう?」
B「あんなにエロい顔してさ…。気持ちよかっただろ?」
智「黙って貰えますか…」
は?スッキリだと?
したよ?そりゃするだろう。だって知らないうちに溜まってた筈なんだ。遅かれ早かれ自己処理をする羽目になっていただろう。
だがしかし、だがしかしだ。
やっぱりアレは無いだろう。いくらなんでも暴走し過ぎだ。
メンタルの弱い人間ならとっくに逃げ出して今頃何処かで泣いてるさ。
俺が強くて良かったなお前ら。
お陰で罪悪感もそう湧かないだろう。
まあ、俺だってコイツらに対しては何の罪悪感も湧かないが。
松兄ぃに甘えた時は幸せを感じた。
だが、それと共に酷い罪悪感が俺を襲った。
今でも甘えりゃそれは優しく俺を抱いてくれるだろう。
だが駄目なんだ。
松兄ぃに限らず、潤やニノも。
だけどコイツらは違う。
だって、俺を気に入ってはいるだろうが、俺に対しての思いが全く違うんだから。
だから罪悪感なんて何も湧かない。
只、自己嫌悪には陥った。
なんでこんな気持ちにさせるんだクソが。
俺はキッと二人を睨み、足を踏んづけた。
