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不透明な男

第10章 視線




いつまでしゃべってんだ



家に帰ってきた俺は、マンションの柱の陰で立往生していた。



なげえよ…



あのおばちゃんが井戸端会議に花を咲かせていたんだ。

こうなるとなかなか話は止まらない。

この姿のままおばちゃんとすれ違う訳にも行かず、柱に隠れておばちゃんが去るのをずっと待っていた。

だって、絶対話し掛けてくる。
人違いだと気付いたとしても、話は止まらないんだ。
あらあら、貴方にそっくりなコがいるのよ~なんて話出して絶対捕まるんだ。俺は知ってる。



はぁ、仕方ないな…



家に戻るのは諦めて、俺は方向を変えた。



…ガチャ



久し振りに入った家は、この間来た時よりも埃が溜まっていた。

テーブルには相変わらず飲みかけのペットボトルと薬が置いてあった。



しかし、たった8年でよくここまでボロくなったもんだな…



そもそもこの家は古かったんだ。
でも、それがアンティークっぽくて可愛いじゃないと母に言いくるめられ、父親がこの中古物件を買ったんだ。

外国のお伽噺に出てくる様な可愛い洋館にするんだと、庭は植物で埋め尽くされた。

更にはもっと大きくなあれと、生育増進剤なんてものをしこたま撒いた。

お陰で手入れをしていないこの8年で、ジャングルの様になってしまっていた。



…見た目はボロいけど

ちゃんと補強もしてたんだな



老朽化の進んでいたこの家は、所々補修が施されていた。
だけど、母親のヘンなこだわりのせいで床や窓枠は古いままの味の出た仕上がりになっていた。


この間来た時は、自分が18歳まで住んでいた家だなんて気付かなかった。



だから、あの階段も見付けられなかったんだ。



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