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不透明な男

第10章 視線


俺は、地下に通じる階段を降りる。

隠れた様に設置されたその階段は、隅に埃が溜まっているものの、人が歩くであろう場所はあまり埃が無かった。

やはり俺が、この階段を歩いてたと言う事なんだろう。



…誰だ?



気配を感じた。
俺は咄嗟に息を潜める。

階段を降りたその先にあるドアは閉まっていた。

だが、その中に誰かいる。そんな気配を感じた。


俺は足音を潜めて降りてきた階段をまた昇る。

どこか、隠れる所は無いかと場所を探す。



コツ、コツ…



足音が階段を昇る。

隠れる場所も十分に探せなかった俺は、近くのキッチンカウンターの陰に身を潜めた。



コツ、コツ…



足音は階段を登りきると、静かに部屋を彷徨く。

深い溜め息が聞こえると、その足音は声を発した。


「…やっぱりわかんねえ。前と変わってる所は無さそうだったけど…。一体何をしようとしてるんだよ…」


ドサッとソファーに座る音が聞こえた。

聞き覚えのあるその声に、誰なのか確かめたいという衝動に駈られる。

俺はカウンターの陰から少し顔を出し、その声の主を探す。



あれは…



智「…え」

「!」


しまった、と俺は口を押さえて陰に引っ込んだ。

しかし、俺の声を聞き逃さなかった足音はこちらへ近付いてくる。


「…誰?…誰かいるの?」


俺は息を潜めて小さくなった。

頼む、見付けるな、早く出ていけと祈るように目を閉じた。


プルル…プルル…


「ちっ、…はい、…あ、はい、分かりました。はい、直ぐに戻ります…」


電話に出ている隙に俺は素早く奥の棚の裏に隠れた。


「…あれ、誰もいない。……気のせいか…?」


そいつはカウンターを除き込んで首を傾げた。

ふぅ、と一息つくと、そいつはゆっくりと部屋を歩き、裏口から出ていった。



なんだ…?

なんでお前がここにいるんだ

説明しろよ…



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