
不透明な男
第10章 視線
なんだこれ、天才か…
あの視線はアイツなのかな、いやでも、そんな素振りは全く見せてなかったしやっぱり違うのかなと、散々悩んだ挙げ句、脳がギブアップした。
それで、さっき降り損ねた階段を降りて地下室のドアを開けた。
これ、誰が作ったんだっけ…
目の前には簡易シャワーが設置してあった。
貯水タンクに鉄パイプが刺さっており、その先にはシャワーノズルが付いていた。
ああそうだ、父親だ。
確か小さい頃に、これで断水してもシャワーが出来るぞと、おれも手伝って一緒に作ったんだった。
きゅっとレバーを捻るとシャワーからは水が出た。
冷たい水のままだったが、水を貯めてあるという事は俺がこのシャワーを使っていたのだろう。
その証拠に俺のお気に入りのシャンプーが置いてあった。
だだっ広いコンクリ打ちのその空間には、シャワーの他に、ソファーやテーブル、姿見にパイプハンガーが置いてあった。
そのハンガーには、スマートなスーツがいくつか掛けられており、シャツやネクタイまであった。
冷たそうだけど…
まあ、仕方ないか
俺は、取り敢えずその水で頭を洗うと、スーツの隣に畳まれてあった私服に着替えた。
…さっむ
風邪引きそう
よくこんなの耐えてたなと思いながら隣に目をやると、そこには発電機があった。
しかも電熱棒まで。
ああ、これで暖かいシャワーが使えたのか
そりゃそうだよな
もっと早く気付けば良かったなと、俺は苦笑いをした。
さて、戻るか…
