
不透明な男
第10章 視線
智「ねえ、翔くんてさ」
翔「ふぁい?」
智「いっつも腹減ってんの?」
モゴモゴとそれは美味しそうに料理を頬張る。
さっきまで違う意味でモゴモゴしてたって言うのに。
全く信じられない。
智「そんで、なんであそこにいたの?」
きちんと手を合わせてごちそうさまをした翔に質問を投げ掛ける。
翔「ちょっと、気になって…」
智「なにが?」
翔「あの医師との事…。涙目だったって、婦長が言ってたもので」
智「ああ…、そんなの信じたの?」
翔「違うんですか?」
翔は目を丸めて俺に聞き返した。
どうやら本当に心配してたんだろう。
智「涙目はほんとだよ?だけど、あんなの嘘だ」
翔「嘘?って、何が…」
智「だから、涙が。あんなの芝居に決まってるでしょ」
は?と言うと翔は固まった。
絶句したんだ。
智「知らなかった?おれ、嘘つきなんだよ?」
翔「え…、ってか、大野さん。今日、なんだかいつもと雰囲気が」
智「おれが嘘つきな事くらい、分かったでしょ翔くん…」
翔「お、大野さん、どうしたんですか?僕が、貴方の家に急に行ったから怒ってるんですか?」
智「そんなの、別に怒ってないよ」
翔「じゃあどうして」
いつもニコニコと翔と話していた俺が、今日は素っ気ない。
その事に不安を覚えた翔は、瞳を揺らして俺の顔を見る。
そんな顔したって許してやらない。
俺は気付いたんだ。
翔が嘘を付いているって事に。
智「どうして…?」
その真意は分からない。
だって俺は翔じゃないからね。
翔の気持ちは翔にしか分からないんだ。
翔が俺の頭の中を探れない様に、俺も翔を探れない。
智「どうしてだろうね…」
どうして俺を探る?
いつも気になっていたあの視線。
あの視線の意味はなんだ?
いつまでも惚けられると思うなよ…
