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不透明な男

第11章 背徳


俺の頬を大きくて暖かい感触が擽る。

その刺激で、俺は静かに目を開いた。


A「成瀬…、大丈夫か?」


目を覚ましたのか?と、遠くからBの声も聞こえた。


A「一体どうしたんだ。何があった?」

智「いえ…」

B「運んでる最中に意識無くすもんだから、焦ったじゃねえかよ」

智「あ、すいません。有り難うこざいます…」


会社内にはBG専用の医務室がある。
だが俺は、その隣の仮眠室に運ばれていた。


A「まだ顔が青いな…。もう少し休んでおけ」


俺の上着とネクタイはきちんとハンガーに掛けられ、首もとのボタンやベルトも外されていた。


B「さすがにこんな顔してちゃ襲えないしな」

A「体調が悪いだけなのか?怪我は?」

智「ありませんよ。しいて言えば、この痕くらいですかね…」


俺は手首に未だに残る数日前の痕をちらつかせた。


A「それは俺達のせいじゃ無いだろう」

B「そうだよ、既に縛られてたじゃねえか」

智「すぐに外してくれていたら、こんなに酷い痕残りませんよ」


ああ、そうだな、とAは目を細めて俺の手首を取った。


A「社長と何かあったのか…?さっき、社長に呼ばれていただろう?」

智「…何も、ありませんよ」


ふぅ、とBは溜め息を吐くと、ちょっと悪いなと、俺をひっくり返した。


智「な、なんですっ?」

B「何もしねえよ。してほしいんならしてやるけど…。ほら、動くな」

A「背中、見せろ」


そう言うと、うつ伏せにした俺のワイシャツを捲り上げ、背中を露にさせた。

俺の肩甲骨に指が這う。


A「うん…。大丈夫だな」

B「悪かったな。もういいぞ」


また俺をひっくり返し仰向けにすると、シャツを整えて布団を被せた。


智「な、なんなんですか…。確か、この間も」


この間?ああ、俺達が熱い情事を交わした日の事か、と俺をからかう様にBがドヤ顔を見せた。


智「そいつ、黙らせて貰っていいですか」

A「悪い奴じゃないんだ。バカなだけだ」



許してやってくれ、と言うAは俺に、少し複雑そうな表情を見せた。





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