テキストサイズ

不透明な男

第11章 背徳


二人は思い詰めた様な顔をしながら、俺の寝ているベッドの淵に腰掛けていた。


智「戻らなくていいんですか…」

A「オカマに任せてきた」

B「あのオカマ、腕は確かだから」


ああ、そうですかと、会話は途絶える。


A「ダチがな、いたんだよ」


急になんの話だと、不思議そうな顔をした俺に向かって静かに話し出す。


A「お前なら、話してもいいか」

B「そうだな…」


重苦しいその雰囲気に、少し心臓がざわついた。


A「コイツなんだがな」


Aは、胸の内ポケットから出した写真を俺に握らせた。


智「え…」

B「驚いたか…?」


そこには俺が写っていた。

正確には、俺も、だ。

さっき社長に見せられた写真、それと同じものをAは持っていた。


A「そっくりだろ?」

B「同一人物なんじゃないかって、俺達もびっくりしたんだよ」


俺は目を見開いたまま、声を出せなかった。

写真に写る人物は三人。
社長と、まだ少年の俺。

それともう一人は…


A「この、お前にそっくりな奴じゃなくて、コッチな。コイツが、俺達のダチなんだ」


途端に胸が苦しくなった。
この青年はコイツらの友達だった。
胸が、きゅうっと締め付けられた。


A「コイツはな、ここに居たんだ。ここで、社長の付き人をやってた」

B「凄く明るくて、優しい、いい奴だったんだ。…だけど、さ」

智「だけど…?」


眉をハの字にしてBは話す。


B「写真見ただけでも分かるだろ?爽やかな顔してさ、如何にも好青年って感じで」

A「正義感が強くてな。突っ込まなくてもいいってのに、わざわざ自分から面倒な事に巻き込まれるんだ」

智「…」

A「いつからだろうな。コイツから笑顔が消えたのは…」


この青年は、コイツらの言うように明らかに好青年だった。



同時、悪意なんてモノを何も感じる事の出来なかった18歳の俺は、この青年に、助けられたんだ。




ストーリーメニュー

TOPTOPへ