
不透明な男
第11章 背徳
A「コイツの様子がおかしくなってきたな、と思った時にな。気付いたんだ。色んな所に痣がある事を」
智「痣…」
最近空気が重いな、笑わなくなったなと、思ったAは、青年の袖口から覗く赤い痕に気付いたらしい。
首元にも、ワイシャツの隙間から赤い後がちらっと見えた。
B「俺達はここで知り合ったからな。よく仕事上がりに一緒に銭湯に行ってたんだよ。だけど、それも行かなくなって」
笑わなくなってしまった青年を元気付けようと、無理矢理銭湯に連れていったらしい。
その時、身体中に残る赤い痕に気付いたと、そうコイツらは言った。
A「あれは…、縛られた時に出来る痣だ。その他にも抵抗した時に出来る様なモノや、無理矢理押さえ付けられた時に出来る様なモノなど、色んな痣が付いていた」
B「…で、背中には、一際濃い痕が残ってたんだ」
智「背中…?」
A「ああ…、社長のマーキングだよ」
きつく吸い付いた様に出来た痣を問い詰めた。
今までどんなに問い詰めても口を割らなかった青年が、もう誤魔化せないなと、諦めた様に話した。
ずっと前からだ、俺は、社長の玩具なんだと。
智「……」
B「アイツはさ、体も細くて力も弱かったし、ましてや付き人なんて出来る様な頭も無かったんだよ」
A「そんな奴が社長の付き人なんておかしいと思ってたんだ。なんの前触れも無く、急に付き人として現れたんだからな」
智「元々、社長の知り合いとかだったんじゃ…?」
A「それは違う。たまたま出会った所、社長がとても親切にしてくれたと、体力も学も無かったフリーターに高額の仕事を与えてくれたと、最初はとても喜んでたさ」
俺と同じだ。
成瀬として社長に出会った俺は、その青年が辿ったであろう道を歩まされていた。
違うのは、俺が社長の本質を知っているという事。
その本質を知らなかった青年は、いとも簡単に社長の毒に侵されたんだ。
何も知らなかった18歳の俺も、青年と同じ道を辿るのは難しく無かった。
だけど、それを食い止めてくれたのは、この青年だったんだ。
