
不透明な男
第11章 背徳
生気を無くした様に青白い顔をして毎日を送っていた青年が、ある日を境に瞳の色を取り戻した。
心配していた二人は、最初はその様子に少し安心したそうだ。
A「ほら、ここに写ってるだろ?お前に瓜二つの少年が」
指でトントンと写真に写る俺を突く。
B「アイツは、この子の事をとても心配してたんだよ」
そうだ、俺はいつしか社長の屋敷に来る様になっていた。
その時の社長はとても親切で優しくて、まるで親戚の叔父さんの様な感じで。
俺はそんな社長の事を不思議には思っていたが、疑う事なんて何もしなかった。
青『いつからここへ来る様になったの?』
智『えっと…、1ヶ月位前からかな?』
社長とはどういう知り合いなんだ、何故ここに来る事になったんだと、俺に質問をした。
それは、問い詰める様に聞く訳ではなくて、俺が困らない様に、優しい笑みを浮かべながら静かに聞いてきた。
智『おじさんがおれの描いた絵を気に入ってくれたんだ』
青『君は絵を描くの?』
当時は優しい社長の事を、気軽におじさんと呼んでいた。
社長も怒る事なんて無くて、逆に喜んでいた位だった。
智『うん。公園で描いてたらね、それいいねって。出来たら売ってくれないかって言われてさ』
俺はその絵をいつも同じ場所で描いていたから、社長が俺を見付けるのは苦労しなかっただろう。
少しずつ出来上がっていく絵を、たまたま通り掛かった様に装ってはいつも隣で見ていた。
智『ほら、そこに飾ってるよ』
屋敷の廊下に掛けられていた絵を指差すと、青年は目を細めてそれを見た。
青『わ…、凄いね。君は、素敵な絵を描くんだね』
キラキラした瞳で、俺じゃなく、俺の描いた絵を見ながら言葉を漏らす。
俺はそれがとても嬉しくて、少しこそばゆい感じがした。
そんな俺に、少し困った様な顔をして話し掛けてくる。
青『また、描いてくれって言われてるの?』
智『うん、ここで描けばいいって。部屋を用意してくれたんだって』
途端に青年の表情が曇った。
青『いい話だとは思うけど、もうここには来ない方がいい』
智『え?』
青『君は、まだ知らないんだね。もう、来ちゃ駄目だよ?』
俺の手を取って何かを探すように手首を眺める。
その言葉の意味を、まだ少年だった俺は理解出来ていなかったんだ。
