不透明な男
第2章 正体不明の男
男を見ても喜ばない、反応すらしない俺を不振に思い、男は俺を質問攻めにした。
簡単な計算や文字の読み方等基本的な事は答えられるが男に関する事は何も答えられなかったらしい。
それどころか自分が何処の誰だかということすら答えられなかったようだ。
男は愕然とした。
一時的なものだと思う。と宥める医師の声に答えることも出来ず、只々呆然としていたらしい。
からの…
あの行為。
看護師に促されシャワーを浴びに行く俺の後ろ姿を男は黙って見送る。
俺が戻ってきても男はそこに居た。
男は何時間そうしていたのか、いつの間にか外は暗くなり消灯時間を過ぎていた。
髪から水を滴らせる俺に、男は未だ愕然としたまま口を開いた。
男『本当に覚えてないのか…?』
智『…何を覚えてないのかもわかんない。』
男『俺を忘れたのか…?』
智『忘れた…?』
男『思い出せないか…?』
智『おれの…知ってるひとなの?』
男『!』
そのひとことで、男は崩壊した。
男は俺の胸ぐらに掴み掛かる。
嘘を付いてるんだろ?俺を騙して遊んでるんだろう?と震える声で訴える。
しかし全てを忘れた俺には、その訴えは届かなかった。
悲しむあまり、男は人格を変える。