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不透明な男

第12章 惑乱


何故だか翔は動揺しているように見えた。
視点も定まって無かったし、表情も少し固まっていた。

俺が、もう病院には来ないと言ったからだろうか。

だからと言って何故、そんなに動揺する必要がある?
まるで恋人に別れを告げられたかの様に、翔の顔は青かった。



…わかんねえな



コーヒーを啜りながら、俺はぼーっと翔の事を考えていた。



しばらくすると、遠くから視線を感じた。
その時俺は、休憩中の看護師に話し掛けられ、頬杖を付きながらニコニコと看護師の相手をしていたんだ。


智「んふふ、そうなんだ」


遠くから見たら、俺は楽しそうに見えるだろう。


智「あ、ここ、クリーム付いてるよ?」


頬杖を付きながら小首を傾げ、看護師の口元を覗き込む姿は、翔からはどう見えているんだろう。


智「おいし♪」


指で拭ったクリームを、ペロッと舐める仕草なんてものは、見たらどう思う?


智「うん、うん…、わかった…」


看護師の耳に唇を寄せて小声で話す姿は、お前にはどう映ってる?


智「そろそろ休憩終わりでしょ?…ん、わかってるよ。また、ね?」


ふんわりと笑いながら手を振る俺を、どんな感情で見ているんだ。
その突き刺さる視線と同じ様に、冷たい瞳で俺を見ているのか?




智「翔くん」


ガタッと椅子から立ち上がった俺は、さも今気付いたという様に翔を見た。


翔「大野さん…」

智「どうしたの?ひょっとして、呼びに来てくれたの?」

翔「あ、はい。診察が、終わったらしいので…」

智「わざわざごめんね?」


今様子見に行こうと思ってたんだ、助かったよと俺は翔に笑いかけた。


翔「あの看護師と、知り合いなんですか…?」

智「いや、そういう訳でも無いけど。ほら、入院してた時によく病室に来てたじゃん」

翔「会う約束でもしました…?」

智「…どうして?」

翔「いえ、さっき、またね…って」


何故そんなに青い顔をしている?
どういう心情なんだ。


智「…社交辞令だよ。もう来ませんって言ったら、話長くなるでしょ?」

翔「あ…、社交辞令、ですか…」


少し表情が緩んだ気はするが、未だおかしな顔をしている。


智「さっきからどうしたの翔くん。顔、固まってる」




わかんねえ

わかんねえから聞いてやるよ



ほら、正直に話せ




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