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不透明な男

第12章 惑乱


コーヒーでも、と言いながら酒を出したニノのせいで俺はウトウトしていた。
そんな俺を囲んで三人は楽しそうに話していた。


雅「で、なんで顔に怪我する事を気にしてたの?」

潤「ああ…、俺、役者目指してんだよ」

和「へえ、凄いじゃん!」

潤「ふふっ、まだ全然だよ。目指してるだけだからね」

雅「だから大ちゃんはあんな必死に松潤を止めたんだ」

潤「うん。…だけど」

雅「ん?」

潤「なんで知ってたのかな…」

和「言ってないの?」

潤「や、昔に一度だけ言った事はあるんだよ。でもなんか恥ずかしくってさ、それ以来言ってない筈なんだけど…」


薄目で潤をチラッと見ると、思った通り小首を傾げる潤がいた。


和「思い出したのかな…」

潤「それとも、俺が酔っ払った拍子に言ったのかな」

雅「どうなんだろ…」


空気が静かになる。
それぞれ首を捻ったり、腕を組んだりして何やら思い返そうとしている様だった。


和「俺も、思い出したんじゃないかなって感じた事あるよ」

雅「そうなの?」

和「だけど、大野さんはたまたまだって、偶然だよって言うんだよね」

潤「思い出したとして、それを隠す必要なんて無いよね」

雅「だよね。それに、他に知り合いがいたんだって、この間も思い出した事は言ってくれたし」

潤「だよなあ。じゃあやっぱり偶然なのかな」


うーん、と三人は口々に唸る。


雅「分かんないな…」

和「そうなんだよ、大野さんはさ、不思議なんだよね…」

潤「掴めねえな…」


そうだよ

おれは掴んじゃいけないんだ


和「全く、気持ち良さそうな顔しちゃって」

潤「俺らが智の事で頭を悩ませてるなんて知らないんだろうな」


知ってるよ

だから逃げてるんだ


雅「本当の大ちゃんを見せてくれればいいのに」


それはだめ


和「何見たって、大野さんは大野さんなんだから…」


違うかもしれないでしょ?


潤「どんな智でも、俺は嫌いになんてならないのに」



本当に?



おれが、人殺しでも?




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