
不透明な男
第12章 惑乱
身だしなみを整えた俺は、すやすやと眠る夫人を揺り起こした。
二時間経ちましたので僕は行きますね?では失礼しますと愛想の無い挨拶をした。
そんな俺に夫人はすがり付いた。
待って、まだ行かないで、貴方にもっと興味が湧いたのと、必死な形相で俺に訴えた。
智「取引は二時間だけの約束でしょう?僕は只の材料なんですから、僕の意思では行動出来ませんよ?」
「あ…、ごめんなさい、怒らないで」
智「怒ってなんていませんよ…。当たり前の事を、言っただけですよ?」
お願い、また会って欲しいのと食い下がる夫人の手をほどき、俺はふわっと笑みを残した。
出ていく俺に、夫人は恨めしそうな顔を向けていたがそんなの知らない。
自分で撒いた種じゃないか。
それくらい自分の中で処理しろよ。
俺のせいにすんじゃねえ。
はあああ、それにしてもスッキリしねえ…
B「なんだその溜め息。エライ憂鬱そうだな」
智「そうですか…?」
A「お前何処に行ってたんだ…」
ん?とクンクンと俺の首元を嗅ぐ。
A「…なんで風呂上がりの匂いなんてさせてる」
智「そんな匂いします…?」
B「…この、傷はなんだよ」
俺の首にも夫人の爪痕が残っていた。
智「あ…」
A「何があった?社長も姿が見えなかったがまさか」
智「社長じゃ無いですよ」
B「じゃあ誰だよ、誰かに襲われたんじゃねえだろうな」
智「そんなんじゃ無いですって…」
だってお前、表情もさっきからおかしいぞ、何も無い訳ないだろうと、俺に詰め寄る。
智「もう、本当に…、煩いんですよ……」
いつもの様に睨み付ける訳でも無く、目を開く事も面倒くさかった。
目を閉じ眉をしかめると、その表情を見られたくなくて、少し俯き片手で顔を隠した。
そんな俺の様子に、ごちゃごちゃと煩い二人も押し黙ってしまっていた。
なんなんだ。
なんでこんなにイライラするんだろう。
道具にされた事への憤りなのか、夫人の身勝手さに腹が立っただけの事なのか。
なんの感情も無く女を抱けてしまう自分への絶望なのか。
とにかくもう煩いんだ。
このモヤモヤを鎮める術を、誰か教えてくれ。
