
不透明な男
第12章 惑乱
B「そ、それで、アイツは…?」
別の車に乗せられた青年の事を、緊張の面持ちで聞いてくる。
智「おれが次に見たのは、…っ」
言葉が詰まる。
すっと話そうと思っていたのに、呼吸が吐けなくなって言葉が止まってしまった。
A「大丈夫だ、ゆっくりでいい」
俺の背中を、温めるようにゆっくりと擦る。
智「ん…」
俺は背中を擦られたまま、話の続きをした。
もう何時だろう、真夜中とまではいかないものの辺りは既に真っ暗だった。
俺の見た事の無い道を進む車は、速度を落とし角を曲がる。
智『あ…っ』
その道の先に転がる青年を、俺の目は捕らえた。
智『お、お兄さんが』
車から引きずり出された青年の顔は、なんだか黒っぽく見えた。
ヨロヨロと歩いたと思ったら膝から崩れ落ちてしまった。
その青年に、男が馬乗りになって掴みかかる。
智『だっ、駄目だよ!やめさせて!』
俺は隣の男に訴えた。
涼しい顔をして車を走らせていた男は、車を止めるとチラッと俺を見る。
『無駄だ。社長を怒らせて只で済む筈がない』
只で済む筈がない、その言葉の意味を理解するのにそう時間はかからなかった。
智『あ、開けて! 開けてよ!』
俺はガチャガチャとドアを揺らした。
見た事も無いボタンが沢山付いたそのドアを俺はこじ開ける。
『あっ、こら!』
俺に伸びる男の手をすり抜け車から飛び出る。
未だ震える足を無理矢理動かし、バタバタと青年に駆け寄った。
智『やっ、やめて!』
足が縺れて、俺は転がった青年の上に倒れ込む。
青『そのまま乗っててって、言ったでしょ…』
智『な、なに言ってるの、そんな事、出来る訳ないじゃん!』
青年の顔を見てドキッとした。
これは本当にあの青年なのかと。人違いじゃないのかと。
そう思う程に顔は腫れ、形は変わっていた。
青『汚れるから、離れて…』
俺の服は所々赤い染みが付いた。
さっき黒く見えた顔は、血のせいだ。
車から降りる前から、既に青年は血塗れだったんだ。
智『やだよ…、そんなの、どうだっていい』
ぎゅっと青年の顔を胸に閉じ込める。
青『大丈夫だから、泣かないで…』
怖いのと、酷い有り様の青年が凄く痛々しくて、俺の目からは涙が溢れていたんだ。
