
不透明な男
第12章 惑乱
智「ね、おれ酷いでしょ。自分のせいなのに、他人事みたいに泣いちゃってんだよ(笑)」
B「成瀬…」
自分があんまり情けなくて笑いが込み上げた。
そんな俺を、痛々しそうな顔で二人は見ていた。
A「お前のせいじゃない」
俯いて笑い続ける俺を、Aがぎゅっと抱き締める。
智「なに聞いてたんだよ。おれのせいだ…」
A「自暴自棄になるな」
智「なってないよ。ほんとの事じゃん」
抱き締められたままの俺の背中をBが擦る。
言葉も出ないんだろう、一言も発しないまま黙って俺の背を擦っていた。
智「それに」
A「なんだ」
俺はすうっと息を吸い込むと、吐き出した空気と一緒に言葉を発した。
智「死んじゃったんだよ」
ピタッと、背を擦る手が止まった。
智「あの後すぐに、死んじゃった…」
何度も夢で見ている。
何度も、あの青年は死んだんだと頭で繰り返されている。
なのに、言葉にしただけで、俺の身体は急に震えた。
A「大丈夫だ、落ち着け…」
智「…っ、まだ、生きてたんだ、怪我は酷かったけど、ちゃんと息もして、話もしてたのに…っ」
青年にしがみつく俺は引き離された。
俺を羽交い締めにする男を振り払おうと後ろを振り返ったら、俺を掴んでいたのは社長だった。
後ろから震える俺を抱き締め、社長は俺の耳に囁いたんだ。
“私の元を離れるとどうなるか、よく見ておけ”と。
青年は、何かの液体を口に注がれた。
さっきまで話して、手だってかろうじて動いていたというのに。
智「急に、痙攣して、顔も青くなって…っ」
B「もういいから…っ」
俺は、ガタガタと震える身体を二人に抱き締められる様に押さえられていた。
智「動かなくなった……」
A「わかった、わかったから、ちゃんと呼吸しろ」
呼吸も乱暴で、深く吸ったと思えば急に止まったりと、俺の肩は雑に揺れていた。
智「それで、海に」
A「海…?」
その場所は真っ暗になった埠頭だった。
さびれた埠頭には、街灯も少ししか付いてなかった。
その廃れた場所に乱雑に放置された鉄屑を体に縛り付けられ、青年は海に落とされた。
驚いて声も出なかった俺に、社長はニコッと笑ってこう言った。
“海に還ったんだよ。何も心配する事はない”と。
