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不透明な男

第12章 惑乱



B「大丈夫だったのか?まさかまた、見つかったんじゃ…」

智「大丈夫だよ…。男達が海に潜ってたけど、見つからなかった」

A「お前を探してたのか…」

智「そうみたい。社長が、怒鳴りちらしてたからね…」


男達は凍えるし、社長は怒りが冷めなかった様だがなかなか見つからないから、名残惜しそうにしてたけれど諦めたようだったと話した。


B「そうか、良かった…」

智「良くないよ。おれ、見殺しにしたんだよ?」

A「お前は悪くないんだよ」

智「違う、おれのせいだよ」

A「お前のせいじゃないって」


俺のせいだ。明らかだ。
なのに二人は俺のせいじゃないと言い張る。


智「おれのせいじゃなかったら、一体誰のせいだよ…」


俺はAの胸から顔を離し、二人を見上げる。


智「こんな事になったの、誰のせいなんだよ」

A「成瀬…」

智「おれのせいじゃん。おれしか、居ないだろ…っ!」

B「落ち着けよっ、お前は何も悪くないって!」


思わず声を荒げた。
それに反応したBも、大きな声を出して俺を諫める。


智「違う、おれは最低なんだよ…。だっておれは…っ」

A「何が違うんだ」

智「だって、忘れてたんだよ…? 忘れて、何も無かった様な顔して8年も生きてきたんだ…」

B「…どういう事だ?」


二人は顔を見合せ、俺を覗く。


智「何も知らずに、笑って生きてきたんだ。ね、酷いでしょ…?」

B「知らないって、忘れたってなんだよ?」

A「分かるように話せ」









俺を捜す男達に見つからないように海から這い出した。

悔しそうに、名残惜しそうに海を見つめる社長から、一刻も早く離れなくてはと、凍える身体を引きずって埠頭を出た。


恐怖で身体を震わせ、重い身体を引きずっているうちに、俺の意識は朦朧としていった。



どこまで来たんだろう

ここなら、もう見つからないかな



茂みに身体を潜めて重い身体を休める。



車の音はしないな

……海、冷たかったな



あの青年は、這い出せただろうか。
いや、無理か。
だって、海に落ちる前にあの青年は既に…。


凍える身体を抱き締めながらそんな事を考えていた。




そのうち俺の瞼は、開ける事も出来ない程に、重く閉じてしまったんだ。






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