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不透明な男

第12章 惑乱



智「で、目が覚めたのが病院のベッドだった…」

B「気を失ったのか」

智「気だけじゃないよ、…記憶も…」

A「何があったか、覚えてなかったのか…?」

智「ふふ、最低だよね…」


目が覚めたらからっぽだった。

親も出てこないし、自分が何者なのかも分からなかった。

そんな少年に病院のスタッフは優しくしてくれ、俺はニコニコと笑いながら毎日を過ごしていったんだ。


智「親が出てこないって、そんなの、当たり前なのにね」

B「そうだ、結局お前の親は何処に行ったんだよ」

智「…もう、居ないよ」

B「え…」

智「それだっておれのせいだよ。おれのせいで親が居なくなったってのに、おれは何も知らない顔してさ…」

A「仕方無いだろう。忘れたって事は、お前には耐えきれない程の出来事だったんだ」

智「仕方無くなんてない。都合が良すぎるよ。思い出したのだって、ほんとについ最近なんだ…」


え?と少し眉を寄せて俺に問いかける。


B「最近?…でも、お前がここに来た理由はその事件があったからだろ?」

A「2年前には、BGとして来てたじゃないか」

智「だからおれは卑怯なんだよ」


時系列が分からない、どうなってるんだと二人は首を捻る。


智「忘れたの、これで3度目だよ」

B「は…?」


18歳の時、ずぶ濡れのまま眠りに堕ちて記憶を失った。

社長と再開した時、何か大事な事を思い出しそうで様子を探っていた時、また忘れた。

そして今回、ずっと疑問だった事がようやく分かって、その罪の重さに耐えきれずにまた、俺は頭をからっぽにしたんだった。


智「逃げてばっかだよ。卑怯にも程がある…」

A「その、疑問だった事ってのは…?」


神妙な面持ちで俺を覗く二人を見る。
ん?と眉毛を上げ、目をきょろっと動かすと、俺は口を開いた。


智「原因だよ。おれが、ずっと分からなかった原因…」

B「原因…?」



もう言わなくても分かるだろ

おれだよ

おれが、元凶なんだ





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