不透明な男
第2章 正体不明の男
男「俺か…俺の名前は…」
少し男は考え込むと、ニヤリと笑う。
男「内緒だ。」
智「へっ」
やっとこの男の名前がわかると、ドキドキしていた俺は面食らった。
智「内緒ってなんだよ…」
男「お前のミステリアスを真似してみた。」
男は悪戯に笑って見せる。
智「なんだよそれ、教えてよ。」
男「やだね。お前が自分で思い出せ。」
男はそう言ってのけると、お もう夜中じゃねえか、とネクタイを閉めながら立ち上がる。
智「え、ほんとに教えてくれないの?」
男「ふふ」
ジャケットを羽織り鞄を持つ。
その身なりは、なんだか少し高貴でちょっと偉そうだった。
智「ちょ待てよ、ホモおじさん!」
男「ぶほっ!」
男は吹き出すと目を丸くさせて振り向いた。
男「な、なんだって!?」
智「名前教えてくんないから仕方ないでしょ。」
男「お、俺はホモじゃねえ!」
違うの?とキョトンとする俺に言い聞かせるように男は話す。
男「俺は男が好きな訳じゃない。お前だから好きなんだ。」
智「え…」
男「お前を好きになって一番驚いているのは、この俺だ。」
わかったか、と俺に言うと男は扉に向き直る。
男「じゃ、帰るよ。」
智「え、ちょっと…」
焦る俺の頭をぽんぽんと叩くと優しい笑みを浮かべる。
男「心配するな、また来る。」
そう言って男は俺のいる病室を後にした。