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不透明な男

第12章 惑乱



智「だから、さ。おれだけ生きてるのがなんでか分かんなくなって」


皆を殺してしまったのに生かされてる意味が分からなくて。


智「おれのせいなんだから、社長を恨むのは違うんだろうし…」


そうだよ、自分の責任なんだ。


智「だからもう、生きてられないよ」

A「成瀬」

智「早く殺して」

B「おい」

智「後ろめたいんだよ…」


俺は泣いてないのに、何故か話を聞いてる二人の方が泣きそうな顔をしている。


智「こんなのもう、耐えられないんだ…」

A「自分を責めるな…っ」

智「償わせてよ」


お願い、と涙を浮かべる二人を交互に見た。


A「お前が罪の意識を持つ必要なんて無いんだ」

B「そうだよ。何度も言うけど、お前のせいじゃない」


なんでそんな事言うんだ。
やっと自分の罪を自覚する事が出来たというのに。


智「違う…」

B「違わないだろ。誰もお前を責めたりしない」


責めろよ。
殺してやりたいって、思えよ。


智「そんな事言うな…っ。頼むよ…」


だからなんで涙なんて出るんだよ。
自分の撒いた種だろう?


智「…っく、は、やくっ」

A「…成瀬?」

智「殺して…」

B「おい…、おいっ、しっかりしろ!」


なんだろ。
酸素が足りないのかな。頭がぼーっとする。
まあいいか。
これで死ねるかもしれないし。


A「成瀬!目を開けろ!」

智「なんだよ…、早く…しろよ」


遠退いた意識が、身体を揺らされた刺激で戻される。



あ、そうだ

確かポケットに…



目を瞑ったまま、ガサゴソと上着の内ポケットをまさぐる。


A「何してる…」

B「成瀬…っ!やめろって!」


ポケットから出した錠剤を適当に口に放り込み、それを流し込もうと酒の入ったグラスを手に取った。


智「んん…っ、な、んだよ、邪魔すんじゃねえ…っ」


グラスを叩き落とされ、口に放り込んだ薬を掻き出される。


智「けほ、けほっ…」

B「…っ、何、考えてんだよっ!」


頬に衝撃が走った。

俺の頬に平手打ちが飛んできたんだ。


智「殺してくんないからじゃんか…」


なんでお前らが泣いてるんだ。

泣くんじゃなくて、恨むのが普通だろうが。



そんな可哀想な顔で俺を見るな…。




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