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不透明な男

第12章 惑乱



哀れな顔で俺を見る。
それが耐えられなかった。


智「そろそろ、帰るよ…。急に押し掛けてごめんね」


立ち上がる俺を二人は見上げた。


智「じゃ…」

B「ま…、待てよっ」


俺の腕を掴む。
だけど俺はそれを振り払った。


智「頭、冷やすよ。変な事言ってごめんね」


ちゃんと笑って言ってやろうかと思ったけど、なんだか顔の筋肉が固まったみたいで笑えそうに無かった。
だから、二人には背を向けたまま言った。


A「駄目だ、ここにいろ」

智「なんで…」

B「そうだよ、今日は泊まって行け」


独りになりたいんだ、そんな事を言ったところで全く敵わなかった。
玄関にすら辿り着けずに、結局俺はしっかりと二人の間に挟まれてソファーに座るハメになった。

俺の思惑を読んでいたんだろう。

ここにいては死ぬ事なんて出来ない、だからここから離れよう。

そんな事を頭に浮かべていた俺の事を、見透かしていたんだ。


智「おれの心が読めるんだったらさ、なんで殺してくんないんだよ…」


俺は溜め息混じりに言った。


A「お前にはやる事があるだろう?」

智「…そんなモンもう無いよ。俺の親だって死んでるんだ。俺の知りたかった事は、もう分かったんだよ」


そうだよ、もうやる事なんて無い。
だから後は死んで償う事位しか俺には残ってないんだ。


B「どうしてそんなに自分を責めるんだよ。考え方、間違ってないか?」

智「は…?」

A「お前バカだろう。何も分かってないじゃないか」


何も間違ってなんか無い。
必死で思い出したんだ。間違ってる筈が無いだろ。


A「皆お前の事が大事だったんじゃないのか?…大切なモノを守るのは、当然の事だろう?」

B「やっとの事でお前を守ったのに、そんなあっさり死なれちゃ浮かばれねえよ」

智「…っ、だ、だけどっ」


だけどもクソもねえ、お前はバカなんだからイチから考え直さなきゃ駄目だと俺を諌めた。


A「物事の本質を見るってのは難しいんだ。周りから見りゃ誰が悪いかなんて一目瞭然なのに、当事者は自分を責める傾向にある」

B「お前は優しいからな。それが顕著に現れただけだ」

智「え…?」

A「お前はバカだって事だよ。少ない脳ミソで考え過ぎたんだ」

B「まだ分からねえのか?」




なんでコイツらは笑ってるんだ?





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