
不透明な男
第12章 惑乱
取り合えず今日はもう寝よう。
そんな混乱してちゃ何言っても無駄だろうからと、俺の頭をポンポンと撫でた。
A「な?また落ち着いたら話そう」
哀れな顔ではなく、今度は優しい表情で俺を見た。
B「ほら、これに着替えろ」
ポイッと俺の膝に投げられたスウェットは明らかに大きかった。
B「寝るんだから早く」
急に和んだ空気に違和感を感じながらも、俺は言われるままに着替えた。
B「お…、なんだその可愛さ」
ブカブカのスウェットを着て立ち竦む俺を見てBはニヤける。
たまんねえなおい、といつもの調子で俺を見た。
智「おれ、ここでいい」
A「警戒しなくても襲わせねえよ。ほら、広いから三人でも十分だぞ?」
どえらいデカいベッドに引きずり込まれた。
俺を真ん中に、二人が両脇を固める。
智「警戒してんのはそっちだろ…」
B「ん?」
智「そんなガッチリ固めなくても出て行かないよ…」
A「ははっ、バレたか」
よしよし、そんじゃ寝ようと俺の頭を撫でた。
部屋の照明を消され、ベッドサイドに小さな明かりだけが灯る。
その温かい色に、俺は何故か瞳が潤んだ。
A「成瀬は泣き虫なんだな…」
智「泣いてない」
B「ふふっ、可愛いヤツめ」
頭を撫でられ、胸をポンポンと叩かれる。
まるで小さな子を寝かし付けるように二人は俺に向き合った。
A「側に付いててやるからゆっくり寝ろ」
B「そうだよ、安心しな…」
不覚にもウトウトとしてくる。
智「ん…」
さっきので睡眠薬が無くなってしまったから、今晩は寝られないんだろうなと思っていた。
だけど、毎晩冷えていた俺の身体も、二人の体温が伝わっていつの間にか温かくなっている。
その体温と、トントンとリズムを刻むような手つきに惑わされて、俺の瞼は自然と閉じていったんだ。
