
不透明な男
第12章 惑乱
智「く、くるし…」
息が出来ない。
胸が圧迫されたように重くて苦しかった。
智「…っ、おも…」
俺の耳には地鳴りのような音が聞こえ、腕や足も動かせない。
智「な、なに…?金縛りか…?」
しかめた目をこじ開ける。
だけど俺の目の前は暗かった。
A「どうした……」
智「んぁ?」
B「んん…、おは、よ…う」
ってお前らかよ。
なんなんだくっそ重てえ。
智「く、苦しい」
俺の顔面に太い腕が乗っていた。
いつの間にかAに腕枕をされているが、もう片方の腕は俺の顔面に乗っている。
その逆からは、俺に抱き付くとでも言うのだろうか、酷いいびきをかきながら、まるでコアラのように俺に絡みつくBがいた。
智「なんなのコレ。どいて」
A「ん…?」
智「ん?じゃなくて。おれ潰れちゃう」
B「ん~、朝からお前は可愛いな~」
むぎゅううう
智「ぐふっ」
A「あっ、おいこらやめろっ。成瀬が」
寝惚けて俺に抱き付くBはシバかれた。
いってえ!と目が覚めたBが漸く俺から離れると、俺はAに包まれた。
A「大丈夫だったか?痛いところは?」
智「無いよ…」
俺の頬に、触れるだけの優しいキスをする。
B「あっ、何やってんだよ!」
A「挨拶だろうが。外人は皆やってるだろう?」
じゃ、じゃあ俺も!とBも俺の頬にキスをした。
智「…ふふっ、なんなの気持ちわりぃ…」
プッと吹き出した俺の顔を見て二人は安心したように笑う。
だが、その二人の顔には疲れが見えていた。
智「ごめんね。寝られなかったでしょ」
A「大丈夫だ、気にするな」
B「そんなのなんでもねえよ」
ふんわりと眠りに落ちた俺は、朝まで眠り続けるのかと思った。
だけどやっぱり急には無理で。
何度目を覚ましただろうか。
俺がうなされるもんだから、二人はその度に俺と一緒に起きて背を擦ってくれた。
冷や汗をかいていたらタオルで優しく拭いてくれ、俺が震えていたら温かい体で抱き締めてくれた。
もう大丈夫だ、もう怖くなんて無いよ安心しろと、俺の頭を撫でてくれたんだった。
俺はその体温に包まれながら思っていたんだ。
本当に、こんなに温かい場所に居ていいのだろうかと。
