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不透明な男

第12章 惑乱



B「どこ行くんだよ」


顔を洗ってチャチャッと着替える。
そのまま玄関に向かう俺は、ガシッと腕を掴まれた。


智「え…、着替えに帰ろうかと」


夫人に貰ったスーツしか無かった。
昨日と同じスーツというのもなんだし、というかお洒落過ぎて仕事には不釣り合いだった。


A「おい」

B「ん、一緒に行こう。先メシ食え」


AとアイコンタクトしたBはそう言う。


智「なんだよ、着替えに帰るだけだって。そんな不審な顔すんなよ」

B「わかんねえだろ、着いてくよ」

智「なんだそれ…」


二人はまだ不安そうな顔をしていた。
朝からニコニコとしていたものの、俺がひとりで出て行こうとするとその表情は途端に曇った。


A「ほら、時間無くなるぞ」

B「チャチャッと食え」


俺を押し戻し椅子に座らせる。
座った俺にトーストを握らせ、早く食えと急かす。


智「いただきます…」

A「ん」


なんで俺はこんなとこで温かいスープなんて飲んでるんだ?
昨晩は死のうとしていた奴が一体何やってんだ。


智「んまい…」

B「だろ?二日酔いにもいいんだぜ」


そう言えば、最近美味しいものなんて食ったかな。
何かしら食べてはいたけれど、味なんて何も感じなかった。


A「お前最近痩せすぎだ。しっかり食え」

B「美味いモン食べりゃ、気持ちも少しは落ち着くだろ?」


二人の言葉に、少し目の奥が熱くなった。

だけどそれと同時に胸がチクッと痛んだ。



昨晩取り乱していた俺を、お前は悪くない、考え方を間違えただけだと二人は言った。

でもやっぱり俺は、間違えていないと思うんだ。

やっぱり悪いのは、俺だと思うんだよ。


B「ほらまた…」

A「だから目が離せないんだ」


俺の顔を覗き込んで二人は呆れた顔をする。


A「お前の考えてる事なんてすぐに分かる」

B「本当にお前はバカだなあ…」

智「…お前よりマシだよ」




ほら早く行くぞと、朝食を食べ終えた俺はケツを叩かれた。







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