
不透明な男
第12章 惑乱
部屋に入った俺は手早く着替える。
クローゼットを開けて一番取りやすい所にあったスーツをパパッと着た。
マンションに着くと、二人は一緒に車を降りた。
だからその二人を制した。
いや駄目だ心配だから着いて行くと、聞かない二人をなんとか車に押し戻してこう言った。
10分で戻るから待っててと。
なのに5分に変更された。
しかも5分経っても戻って来なければドアをぶち破ると言うんだ。
だから俺は必死に着替えている。
A「早かったな」
智「ドア壊されちゃたまんないからね」
ドサッと後部座席に乗り込む。
B「で、あの坊っちゃんどうした?」
智「…どうしたとは?」
A「特に進展無さそうだな」
何故急に翔の話を出したのか。
それは、今そこに翔が居るからだった。
A「話、聞いてやった方がいいんじゃないか?」
智「どうして…」
B「気になってんだろ?」
確かに気にはなってる。
今日だってまだ早朝だぞ?
何時からいたんだろう、夜勤だったのだろうか。
智「まだ思い出せてない事があるんだろうな」
A「ん?」
智「何か恨みを買う様な事したんだよきっと。だから俺をつけてるんだ…」
B「は…? お前あの坊っちゃんの顔見たか?」
気配は感じてるけど顔は見ていなかった。
いつもそうだった。
気付いているのに、気付かないふりをして翔の前を通り過ぎていたんだ。
A「恨みのある顔というよりは」
B「だよな。なんか心配そうな、とでも言うのか」
智「え?」
A「まあでも、執着もここまで来るとヤバいかもな」
執着?
翔が俺に?
まあでもそうか。
執着していなければ、睡眠時間を削ってまで張り込むなんて事しないだろう。
智「てことは、やっぱ恨まれてるんだよ」
B「だからお前はバカかって…」
は? なんでそんなに呆れるんだよ。
智「だってたまに、刺すような視線を感じるし。俺を殺したいんじゃないの?」
A「それはどんな時に」
うーんと天を仰いで思い返す。
松兄ぃの話をした時や、俺に付いた紅い痕を見付けた時か?
A「やっぱりな」
智「なにが」
なんで自分の事になるとそんなにバカなんだと、二人はまたもや呆れ顔を見せた。
早く手を打たないと暴走するぞと、念を押しながら。
