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不透明な男

第12章 惑乱



会社に行くと、いつもの様に任務に就く。

出たり帰ったりと忙しい社長は、少しの間を見つけると俺を呼ぶ。


A「大丈夫か?」

智「今に始まった事じゃない」


何時もの事だ、何も心配いらないよと言う俺を二人は心配そうに見送った。






社「昨晩はゆっくり眠れたかね」

智「はい…」


お陰様でいつもと変わらず寝られなかった。


社「おや?少し隈が出来ているか…?」


俺の頬を掴むと目の下を親指でなぞる。


社「ははっ、身体の熱が覚めずによく寝られなかった様だな…」


社長の瞼の裏に、夫人を抱く俺を写しているんだろう。


智「そんな事無いですよ…」


俺の頬にある社長の手を掴んで、そっと外した。

目線を下げ、下ろしたその手を離そうとした時、俺の手はぎゅっと掴まれた。


智「ど、どうされました…?」


驚いて顔を上げる。
普段なら上手く交わせるものの、何故か今日は驚きを隠せなかった。


社「この手で夫人を抱いたのか」

智「え…」

社「この手でどんな風にあの女の身体を撫でたんだ…?」


黒く光る目で俺を見据える。
その少し嫉妬を含んだ様な瞳に、俺の背は嫌な冷たさを感じた。


智「社長が、女性にする事と同じですよ…」

社「え?」

智「あ、でもきっと違いますね」


俺の手を揉みながら眉を寄せ、話の続きを促すように俺を覗く。


智「社長はモテるでしょう? それに比べたら僕のする事なんて…」


ね、社長?とふふっと笑いながら俺も社長の顔を覗いた。


社「ははっ、また、何時でも教えてやろう」

智「え…?」


俺の手を揉み続けたまま、もう片方の手を俺の首に添える。
掴むように伸ばされた指で、俺の首の血管を触る。


社「どうした、脈が早いぞ…」


やばい。
緊張がバレる。


智「どうしたのは社長でしょう? 一体どうやって教えると言うんですか…」

社「これ位なら何時でも出来るだろう?」


その指で俺の顎を持ち上げた。
社長の黒い瞳と視線が混ざる。


智「ふふっ…、ふざけないで下さいよ。そんな趣味は無いと言ったでしょう?」


笑う俺をまだ見つめる。


智「もう、いくら男だと言ってもこんなに近ければ緊張しますよ? からかわないで下さい」




そう言って視線を外す俺を、どんな気持ちで見ていたのだろう。





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