
不透明な男
第12章 惑乱
溢れた涙を拭いながら俺の頭を撫でる。
そっと重ねられた唇の温度と、その手の優しさが伝わり俺は混乱してしまう。
智「んん…っ、も、駄目だよ」
B「なんで分からねえんだ」
智「分かってるよ…」
唇を離すと俺を見据える。
B「なんでそんな風に思っちまうんだよ…」
智「…なんでお前が泣くの」
俺が哀れで泣いてるんだろうか。
友人を殺された恨みからの涙では無さそうだった。
B「お前が可哀想で堪らないんだ。お前が受けた仕打ちを思うと辛くて堪らねえんだよ…」
どうしてそんな事を言うのか。
何故俺を恨まない?
B「そんな顔すんなよ…」
どんな顔をしてる?
智「社長の目、分かる?あの、黒い渦みたいな」
B「ああ…。汚い、ドス黒い目だろ」
智「おれの目、同じ色してるでしょ」
なんでまた泣く。
せっかく泣き止みそうだったのに。
B「綺麗だよ。どう見たって、綺麗だ…」
智「嘘でしょ。濁ってるよ」
B「透明だよ。思い込むのもいい加減にしろ…」
またぎゅっと俺を抱き締めた。
そうじゃない、ちゃんと分かれと、力一杯抱き締める。
智「潰れるってば…」
そう言えば、俺がうなされた時もこんな会話をした気がする。
それで朝、二人は俺をガッシリと抱き締めてたんだ。
智「ほんとに、おれのせいじゃないと思ってるの?」
B「当たり前だろ」
俺の首に顔を埋めながら小さく呟いた。
大きな体を震わせて、いつもバカばかりしているコイツが泣いている。
智「泣かないでよ…」
B「お前がバカだからだろ」
ごめんって、と俺は頭を撫でてやった。
智「おれを慰めてた筈だろ?なんでおれがお前を慰めなきゃならないんだよ(笑)」
B「お前に泣かされたんだ。責任取れ」
なんだよそれと、つい吹き出した。
智「ちゃんと考えるから」
B「本当か?」
バカな考え方はするなよと、俺に念を押す。
智「ん。だから持ち場に戻りなさい」
そろそろAが怒ってる筈だと言うと、俺の額にキスをして飛び出して行った。
ちゃんと考える、か…
言ってはみたものの、ずっと思い込んできた考えはすぐには頭から離れそうに無い。
だけど、あの二人の顔を見ていたら
俺の考え方は間違っていたのかもしれないと、そんな気もしなくは無かった。
