
不透明な男
第13章 胸裏
智「え、ここ…?」
何故ホテルなんだ。
翔「嫌でした…?」
いや、ラブホテルという訳では無いが。
ああ、そうか、ホテルのレストランか。
だから予約をしていたのか。
智「ううん。翔くんが決めてくれた所なら問題ないよ」
きっと良い店なんだろう。
給料も出たばかりだし、最近はあの二人と飯を食っていたから財布にも余裕がある。
うん、大丈夫だ。
智「いこ?」
翔「はい」
予想通り素敵なレストランに連れて行かれた。
最近ちゃんと食べる様になったものの、元々量は食べない方だから、簡単なコースを頼んだ。
智「ふふっ、スーツで良かったよ。そんなお洒落なスーツでも無いけど」
翔もちゃんとジャケットを羽織っている。
このレストランと俺達は何の違和感も無かった。
翔「あ…」
なんだ?
今頃いつもの俺と違う事に気付いたのか?
今まで違和感を持たなかったんだから、それ程俺の事を見ていたという事なんだろう。
智「スープ冷めちゃうよ?」
黒髪の隙間から目を覗かせ翔を見る。
普段と違う俺の風貌を、指摘しようかどうしようかと悩んでいるんだろう。
智「ほら、冷めちゃうってば」
スープ皿の横に置いたままの翔の手を掴むと、スプーンを握らせてやった。
すると、翔はビクッと体を震わせた。
スープ皿にスプーンがぶつかり、カシャンと音を立てる。
智「あ…、ごめん」
やはり翔は俺の事が怖いのだろうか。
何か言いたげにしているのに翔は言葉を発さなかった。
そんな翔がもどかしくて、つい手を掴んでしまったんだ。
俺は、翔が体を震わせた事に驚いてすぐに手を引っ込めた。
いや、驚いたんじゃないな。
少し胸が、痛くなったんだ。
