
不透明な男
第13章 胸裏
何故か胸がズキッと痛んだ。
俺が触れるのがそんなに辛い事なのかと。
ショックを隠さなければと、息を整える。
翔「あっ、あ、いえっ。僕こそごめんなさいっ」
あたふたと転がりそうになったスプーンを翔は押さえた。
その翔の顔は、少し赤くなっている。
翔「こんな静かなお店で…。目立っちゃいましたね(笑)」
照れ臭そうに翔ははにかむ。
何故赤い顔をしている?
何故、恥ずかしそうに笑う?
只、目立ってしまって恥ずかしいだけなのか、それとも俺を騙しているのか。
翔「どうかしました…?」
智「いや…」
俺の顔を見て、さっきの無邪気な笑顔を翔は隠す。
黙ってしまった俺を見て、少し心配そうな顔をするんだ。
智「ふふ…、ほら、冷めちゃうよ」
翔「大野さんもね」
俺が笑うと翔も笑って返す。
そのキラキラした瞳で見られると、俺は自分を隠したくなる。
翔の前だと、自分がどれ程汚いか思い知らされる様だった。
智「あんま見ないでよ…」
翔「あっ、ご、ごめんなさい」
食事をしながらも翔はずっと俺を見ていた。
わざと視線が合わない様にしていても、俺の横顔に視線は刺さる。
グラスを持つ手。
フォークを招き入れる口。
ペロッと唇を舐める舌。
俺のどこを見ているのか分かる程に、翔の目は、俺をしっかりと見ていたんだ。
智「でさ、翔くん」
食後のコーヒーを飲みながら俺は口を開いた。
この店の雰囲気は確かに落ち着いているが、落ち着いて話が出来るかというと、そうでもなかった。
静かすぎて、逆に話しづらい。
智「この後、時間ある?」
翔「ええ…」
俯いた顔から視線だけを翔に向けた。
俺の切り出しづらい雰囲気を察知したのか、翔も少し緊張気味に返事をした。
智「もっと落ち着けるところ、無いかな…」
黒い髪を揺らして隙間から翔を覗く。
俺の汚い瞳を見せたくなくてチラッと見ただけなのに、翔と視線が合ってしまった。
翔「行きましょう…」
俺は少し緊張していた。
翔がどんな話をするのか、俺にどんな感情を抱いているのか。
それは憎しみなのか、恨みなのか。
過去の俺が、翔に一体何をしたのか。
それを今から、聞くんだ。
