
不透明な男
第13章 胸裏
智「え…、ここ?」
だから何故ホテルなんだ。
行きましょうと翔に促されて席を立った。
そのままスタスタとエントランスに向かって歩く俺を、翔は引き留めた。
こっちですよ、と。
振り向いて見た翔の顔は少し強張っていた。
俺がこんな顔をさせているのかと思うと、胸がきゅっと苦しくなって、翔の顔を見れないまま、俺は後ろを着いてきたんだ。
翔「ええ、どうぞ…」
ガチャッと翔は部屋のドアを開けた。
清潔感のある香りが鼻を掠める。
智「うん…」
白と濃茶を基調とした部屋は確かに落ち着く感じがする。
どちらかの家というのもなんだし、飲みに行っても騒がしくて話も上手く出来そうになかった。
それに比べここなら人も来ないし、なんせ二人っきりだ。
翔もそれを分かってここにしたのだろう。
どんな話だって出来る。
智「ここなら、邪魔も入らないね…」
翔「ふぇっ」
ゆっくりとソファーに座りながら話す俺に、翔がヘンな声を出した。
智「翔くん。ここ、座って」
俺の隣をポンポンと叩く。
近すぎるかなと思ったが、真正面だと俺の顔を見易いのではないかと思った。
隣なら、俺が顔を背けさえすれば見られる事はない。
翔「あ、何か、飲みます?」
少し位はアルコールを入れておくか。
なんだかんだで俺も緊張している。
こんなんじゃ話にならない。
智「あ~、じゃあちょっと酒でも呑もうかな」
翔「はい」
智「あ、でも翔くん車だし呑めないよね?」
翔「いえ、大丈夫ですよ」
代行でも使えばいいか。
翔も緊張しているのか、俺が勧めてもなかなか隣に座らなかった。
翔だって酒くらい呑みたい気分なんだろう。
智「翔くんの好きなのでいいよ」
立ったままメニューを見る翔は何かブツブツと言っていた。
やっぱこういう所はワインかな、焼酎じゃ雰囲気出ないしと、フロントに電話を掛けた。
ソワソワと体を揺らしながら注文をする翔の緊張が移る。
翔を怖がらせない様に、ちゃんと話せる様にと、まずは俺の緊張を解かなくては。
少しドキドキする胸を押さえて、俺はこっそり深呼吸した。
