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不透明な男

第13章 胸裏



自分のグラスにも注ぐ。
注ぎ終えた事を確認すると、翔が口を開いた。


翔「あ、じゃあ、取り敢えず乾杯…?」

智「ふふ、乾杯」


一体何に乾杯なんだろうねと、二人でクスクスと笑う。

穏やかな翔の笑顔を見ていると、先を聞く事を少し躊躇ってしまう。

俺が翔に仕出かした過去が暴露されるんだ。

翔を傷付けた俺の事が分かるんだ。


翔「口に合わなかったですか?」


少し呑んで手を止めた俺を、翔は覗き込んだ。


智「ううん、美味しいよ」


何やってんだ俺は。
しっかり自分の犯した罪を聞くんだ。


智「で、さっきの続きなんだけどさ…」


また空気がピリッとする。


智「おれバカだから。分かんないんだよね」

翔「何がですか…」

智「おれ、翔くんに一体何したの…?」


何をした?
俺は、どうやってお前を傷付けたんだ?


翔「え…」

智「いつも、何を思っておれを見てる?」


俺に対する感情は何だ?
恐怖なのか、それとも嫌悪なのか。


翔「み、見てるって、何を言って」

智「誤魔化さなくていいよ。知ってる。それくらい、分かってたよ」

翔「…気付いてたんですか?」


どんな顔で俺を見てる?
凄く気になるのに、何故か翔の顔を見るのが怖かった。


智「気付かない訳無いじゃん。バレバレだよ…」

翔「いつから気付いてたの…」


俯いたまま、クスッと笑った。


智「ふふっ、今思えば、ざっと5年位前かな?」

翔「…っ」


息を飲んだ気配がした。
驚いたのか。
そりゃそうだ。そんなに前から気付かれてたなんて、驚くのは当たり前の事かもしれない。


智「驚いてるのはコッチだよ。そんな前から、ずっと見てたんでしょ?」

翔「え…、知ってたんでしょう?」

智「思い出したんだよ。少し前にね」


あ、ああそうかと翔は息を吐きながら言った。


智「その視線が翔くんだって気付いたのは、もっと最近だけど」

翔「そうなんだ…」

智「だからさ。知りたいんだよ」


そんなに執着する訳を知りたいんだ。


智「教えてよ」


本当なら自分で思い出さなきゃいけないんだろう。

なのに俺は翔に教えてくれと乞う。



もやもやするんだよ。

ドキドキするんだ。



俺が一体何をしたのか、早く教えてくれよ





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