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不透明な男

第13章 胸裏



翔「知りたい…?」


翔が俺の方に体を向けた。
影でそれが分かる。


翔「分からないんですか?」


翔が俺を見ている。
俯く俺の横顔を、刺すように見る。


翔「こっち向いて…」


グッと肩を掴まれ、俺は俯いた顔を少しだけ翔の方に向けた。


翔「こんな、髪を黒くして、スーツなんか着て、毎日何処に行ってるの…?」

智「それは… 翔くんには関係無いよ」

翔「関係無い…?」


ああそうだよ。
あの記憶の中に翔は出てこなかった。
翔には関係の無い事だった。


翔「俺が、どんなに心配してると思ってるの…!」


グイッと胸ぐらを掴まれる。
太股に肘をつき、前傾姿勢で話をしていた俺を、翔の腕は力強く引き上げた。


智「なんでそんな顔してるの…」

翔「…っ」


間近に迫った翔の顔は、眉を下げて今にも泣き出しそうだった。


智「おれが聞きたいのは、そんな事じゃ無いよ」


俺の話はいいんだ。
お前の事が聞きたい。


智「ねえ、おれ、何やったの」

翔「は…?」


下げた眉に、更に皺を寄せて俺を見る。


智「そんな顔させてごめん」

翔「どうして謝るの…」


どんな感情で俺を見てる。


智「辛そうな顔してる…」


俺は翔の頬を手で触れる。


翔「それは、智くんが…っ」


ほら、泣いちゃったじゃん。
そんなに辛い事を我慢してたのか。
俺は、どんなに酷いことをしたんだろう。


智「泣かないで…」


その泣き顔があまりに可哀想で、俺は涙を拭ってやった。


智「ごめんね…」

翔「…っ、く」


翔が泣くのを堪える。
顔をくしゃくしゃにして耐えている。


智「思い出せなくてごめん…」

翔「智くん…」


俺の名を呼ぶ。
少し酔ったのだろうか。

だけど、こんな状況なのに、何故か翔に名前を呼ばれると心地よかった。


智「ごめん、やっぱいいよ。泣いて。なんかね、泣くとスッキリするんだって…」


俺は翔を抱き締めてやった。

俺のせいで辛い思いを抱えているのに、泣くななんて、酷いと思ったんだ。

前に東山先生が言っていた。

泣くのはいいんだと、それを思い出したんだ。


翔「智くん…」


翔も俺を抱き締めた。

嫌なんじゃないかと思ってた。



だけど翔は、隙間無く、俺を絞め殺すかの様に抱き締めたんだ。




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