テキストサイズ

不透明な男

第13章 胸裏



カサッ

隙間無く抱き締めあっていた胸から擦れた音がした。
俺の内ポケットから覗くそれが、翔に見つかる。


翔「これ…」

智「あ…」


それは東山先生から貰った精神安定剤だった。


翔「睡眠薬だけじゃなく、こんなものまで…」

智「だから、あれは近所のおばちゃんに頼まれたヤツだって」

翔「どうしてそんな嘘付くんだよ」


翔は少し怖い顔を見せた。
話し方も乱暴になってきたようだし、やはり少し酔ったのだろうか。


智「嘘じゃないよ…」


体を離して目を逸らす。
その顔をガシッと掴まれ、また翔と目を合わせた。


翔「嘘つきだよ。俺が待ち伏せてるの、知ってて気付かないふりしてたんでしょ?」


目が据わっている。
さっきまで泣いていたのに、まるで人が変わったように攻撃的な瞳を見せた。


翔「睡眠薬、無いと寝られないんだろ?」


俺の瞼の下を指で撫でる。


翔「でも、今日はちょっとマシだね」

智「しょ、翔くん」

翔「だって毎晩、あの二人が泊まってたもんね…?」

智「ちょ、何言って」


少し憎しみを含んだ様な、そんな目で俺を見据える。


翔「アイツらは精神安定剤の代わり?」

智「ど、どうしたの…」

翔「毎晩アイツらに、慰めて貰ってたんだ?」


急に変わった翔が怖くなった。

でも、今までがおかしかっただけなのかもしれない。

憎しみを押さえて、俺の前でニコニコと芝居をしていただけなのかもしれない。


翔「そんで、今日は隈無いんだね?」


ふふっと笑う翔の笑みを少し恐怖に感じた。

いつもの穏やかな笑みは、やはり嘘だったのか。


智「翔くん…」


まだ肩を揺らして笑っている。

全く楽しそうじゃないその笑顔は、どこか寂しげにも見える。



そういえば、アイツらが言っていた。

そろそろ手を打った方がいいんじゃないか、と。

早くしないと暴走しちまうぞと。



手を打つって何だ。

それは一体どうやるんだ。



翔は既に、暴走を始めてしまったんじゃないだろうか。





ストーリーメニュー

TOPTOPへ