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不透明な男

第13章 胸裏



ああそうだ、結局俺が何をしたのか聞けなかったな。

もう最後なんだし聞いておくかな。

だけど、いっそ聞かない方が楽に死ねるかもしれない。

これから殺されるというのに、翔の手は温かくて凄く気持ち良かった。

天国には行けないんだろうけど、こんなに気持ち良く死ねるのなら俺はラッキーかもしれない。


翔「智くん…」


翔の息が耳にかかる。
ふわっと甘い香りと共に、翔の体温が伝わる。


智「…っ」


ビクッと震えてしまった。
覚悟はしていた。していたんだ。
だけど、俺の想像とは違う刺激に身体が驚いてしまった。


智「んん…っ」


俺の頸動脈に触れた指の代わりに、温かく湿ったものが触れる。
それと同時に首に触れていた手は、俺の頬へ伸びた。


智「しょ、翔」


な、なんだ?
俺に触れているものは、明らかに翔の唇だった。
それが、俺の唇にも迫ってくる。


智「んぅ…」


どうしたんだ一体。
何故俺は翔に唇を奪われている?


智「ちょ、翔く、ん…っ」


俺を逃がさないとでもいうように、翔は俺の頬を両手でしっかり掴んだ。


智「ん、んん…っ」


顔を傾け、翔は俺を貪る。
俺の中にぐいぐいと侵略してくる翔は、俺の口内に入った途端、安心したように優しく舌を動かしてくる。


翔「智くん…」


翔は甘い声で俺の名を囁く。

全く意味が分からない。

分からないのに、何故、こんなに暖かいのか。


智「しょ、翔くん…っ、な、なんで…」


話す俺の唇を塞ぐ。


智「んっ、しょ、くんってば」


翔の下でもがく俺を、翔の唇は漸く解放する。


翔「やっぱり、嫌だった…?」


何を聞いてるんだ。
俺を殺すんだろう?
だからその覚悟は出来てるんだ。


智「なんでこんな…」

翔「え、だって」


だっててなんだよ。


智「焦らしてんの?」

翔「え?」

智「早くヤッてよ…」



そうだよ、早く殺れ。

焦らすなよ。

覚悟してるったって、やっぱちょっと怖いんだよ。



弄んでないで、ひと思いに殺ってくれ。






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