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不透明な男

第13章 胸裏



翔「早くって、そんな」

智「そんなって何。覚悟してるって言ったでしょ」


ハイどうぞと、俺はゴロンと横になった。


翔「…じゃあ」

智「ん」


横になった俺を抱き起こしてジャケットを脱がせた。

それ必要?
ああでもそうか、身元とかバレたら大変だもんな。
ニュースとかで聞く殺人事件ってのは、大抵身ぐるみを剥がされて素っ裸だった気がする。


智「これも、脱いだ方がいい?」

翔「あ、それは僕が」


死んでからだと身体が固まっちゃったりとかで大変なんじゃないのかな。
でも翔はいいと言うし。


智「ん、じゃあ今度こそ。ハイ」


もう一度俺はゴロンと転がる。

目を閉じた俺の首に翔の手が掛かった。



やべえ、ドキドキする

もしかするとだけど、おれ、めっちゃ怖いかもしれない



翔「怖い…?」

智「こっ、怖くないよ」


声が上擦ってしまった。
情けない。


翔「だって、震えてる…」

智「どこがだよ…」


深呼吸をすると、もう一度目を閉じた。
その俺の上下する胸を、翔は撫でる。


智「大丈夫だから、早く…」


俺の呼吸を確かめる様に、俺の胸に手を添える。
そこから翔の体温が伝わり、俺の胸はじんわりと温かくなった。


智「駄目だよ翔くん。これ以上、焦らさないで…」

翔「わかった…。覚悟、してね」

智「そんなの、とっくに出来てる…」


殺す前に優しくしないでくれ。
死ぬのが惜しくなっちゃうだろうが。


智「っ?」


俺の胸のボタンをぽちぽちと外し始める。


智「な、何、やっぱ脱ぐの?」

翔「や、そりゃ、そうでしょう…。嫌なの?」

智「いや、だからさっき脱ごうとしたのに」

翔「そんなんじゃ雰囲気出ないでしょ?」


どんな雰囲気だ。

良く分からないが、何か翔なりのプランがあるんだろう。


智「まかせるよ…」

翔「うん…」


ボタンを全て外すと、俺の地肌に翔の手が滑る。
それは首ではなく、胸だったけど。

その手は温かくて、ほんの少し強張っていた俺の身体から力が抜ける様だった。



やっぱり翔は優しいんだな

こんな俺の為に、気遣ってくれるなんて




ああそうだ、最後にもう一度、翔の笑った顔が見たかったな…







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