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不透明な男

第13章 胸裏



翔はキョトンとしたまま俺を見ている。
そんな翔を、俺は見つめる。


智「ねえ、これ、なんの儀式…?」

翔「へ」

智「一体どうなったら殺してくれんの?」

翔「こっ、殺す!?」


なんだその驚き方。
一体どこから声出してんだ。


智「え?」

翔「え?」


なんでそんな初耳みたいな顔をする?


智「え…って、だって、おれを殺すんでしょ?」

翔「はい???」


だからなんなんだよ。
どういう事だ。


智「や、だから、おれを恨んでるんでしょ…?」

翔「なんで」


なんで?
なんでって言ったか今?


智「だって5年も前からおれの事」

翔「あ、ああ」

智「おれに何か恨みがあって、付け狙ってたんでしょ?」

翔「へ」


違う?のか?
いやいやおかしいだろう。辻褄が合わない。


智「え、どういう事」

翔「コッチの台詞なんですけど」


俺と翔は見つめ合ったまま、微動だに出来なかった。
ただひたすら、お互い目をぱちくりとさせていた。


翔「あの、確認なんですけど」

智「うん」

翔「智くんは、俺に殺されると思ってたの?」

智「うん」

翔「え、え~っ!?」


翔は、信じられないとでもいう様に目を見開いて俺を見た。


智「違うの?」

翔「あ、当たり前でしょっ。なんでこんな可愛い生き物を殺さなきゃなんない…」

智「へ?」

翔「あっ、いや、なんでも」


急に顔を赤くしてごにょごにょと言葉を濁した。


智「え、じゃあこれは? 一体どういう事?」


俺は両手を広げて自分の惨状を翔に突き付けた。

翔の目に、服を乱され胸をよだれでテカらせた俺が映る。


翔「えっ」


いや、あのこれはと、慌てて翔の袖で俺の胸を擦った。


智「いっ、痛いって」

翔「あっ、ああ!ごめん!なさい!」


なんの儀式だったんだ。

や、儀式じゃないな。

だって、殺すつもりは無かったと言うし。



じゃあ、これは…?



俺は、首を捻り過ぎて頭が一回転しちゃうんじゃないかと思った。






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