
不透明な男
第13章 胸裏
和「なんでキスしてくんないの」
智「だってお前…」
なんだよそれ~と、ひとしきりゴネたと思ったら今度は拗ねた顔をして話してくる。
智「俺が暴走しちゃったらどうすんだよ。お前止められないでしょ?」
和「暴走?」
智「ん。普通だったらこんな紳士な奴いないよ?」
お前に誘われて我慢出来る奴なんて俺くらいだと、胸を張って言ってやった。
和「え…、我慢?我慢してたの?嫌なんじゃなくて?」
智「嫌な訳あるか」
キョトンとした顔を急にぽっと火照らせる。
その顔に恥ずかしくなった俺は、動揺しない様にとキッチンへ足を運んだ。
和「ねね、なんで我慢なんてしてたのさ。俺が誘ってるんだからそんな必要無かったのに」
勝手に珈琲を作り出す俺に、カウンターから身を乗り出して聞いてきた。
ニノは恥ずかしいのか嬉しいのか、少しニヤけながら俺の顔を見るんだ。
智「なんでってお前…、お前は、そんなんじゃ無いだろ」
和「え?」
智「おれの事、大好きなんでしょ?」
和「うん」
智「知ってる」
和「な、なんの確認だよっ」
笑いながら少し怒った顔をする。
なんちゅー可愛いんだ。
そんなんに手なんて出したらバチが当たるわ。
智「だからだよ。お前はね、おれの事が好きすぎるの」
和「へ」
智「この間のもさ、キスって程のモンでも無かったじゃん?」
和「うん…」
智「おれが本気でキスなんてしたら、お前腰抜かしちゃうよ」
和「はい?一体どんなテクニックを…」
智「や、じゃなくて」
なんて言うのかな。
確かに俺の事大好きなんだけど、そうじゃないんだ。
ニノは、只ぎゅっと抱き締めてやるだけで満足する奴なんだよな。
それを自分で分かってないのか、先に踏み込もうとする。
智「ん~、産まれたてのヒナみたいな?殻を破って初めて見たのがおれだった、みたいな」
和「だからアナタになついたと?」
智「ん、只純粋におれの事が好きなんだ」
和「アナタ自分の口からよくそんな…」
全く、恥ずかしく無いのかねと少し呆れ顔をする。
智「ふふっ、おれだって言ってて恥ずかしいよ」
なんかずっと照れてたみたいだ。
我慢してた照れ笑いが出てしまった。
そんな俺を見てニノも笑う。
俺はこの人懐っこい笑顔を、守りたかったんだ。
