
不透明な男
第13章 胸裏
和「だからアナタとキスしたかったのに」
深く考え過ぎなんだよと、唇を尖らせてニノは言う。
智「お前自分で気付かなかったの?」
和「何を?」
智「あん時震えてたじゃん」
和「え…」
薬を飲ませてくれとニノがゴネたんだ。
あんまり可愛く駄々をこねるから、そっと口移しで飲ませてやった。
だけどニノは震えてたんだ。
俺がニノの肩を掴んで顔を近付けると、少しだけどプルプルと震えた。
和「うそ…」
智「ほんと。本当は怖かったんでしょ?」
ニノは、まあ純粋に俺になついた。
好き好き大好きと言わんばかりに俺にぺったりと張り付いた。
そんなニノが可愛くて愛しくて、大事にしてやりたいと思ったんだ。
智「おれも好きだよ」
和「えっ」
智「ふふっ、知ってたでしょ?」
和「や、まあ、嫌われてないのは分かってたけど」
智「もうずっとだよ?ずーっと好きだったよ?」
首を傾げてニコニコと笑いながらニノを見た。
ニノは頬をピンク色に染めて口をパクパクしていた。
智「…なんだよ、気付いてなかったの?」
和「や、だって、ず、ずーっとって」
智「ふふ…」
その大事に飾られた皿も覚えてる。
お前の家で珈琲なんて、簡単に淹れられるんだ。
智「だけどね?おれも、好きすぎるみたい」
和「へっ」
智「なんかさ、守ってやりたくなるんだよね。純粋なお前を、誰にも汚されたく無いっていうか、さ」
無邪気で無垢で、ニノは真っ白なんだ。
智「勿論、おれにもね」
和「大野さん…」
薄茶色の綺麗な瞳を揺らして俺を見る。
宝物みたいな、なんだかそんな感じだ。
智「これで十分なんだよ。てか、これがいいんだ…」
和「うん…そうだね」
まるで弟の様だった。
しっかりしていて、いつも心配をしてくるのに、俺にぴったりと寄り添って甘えてくる。
俺もそんなコイツには弱くて、俺を背凭れ代わりに使おうが生意気な口を吐こうが、どんなニノでも愛しかった。
安心した顔で俺の腕に納まるニノは、少し勘違いしてただけだ。
好きは好きでも、ニノは俺とそうなりたいんじゃないんだ。
間違うなよ?
キスしても震えない相手、いるはずだぞ?
