
不透明な男
第13章 胸裏
智「だ、駄目だよ松兄ぃ、ここお店…」
兄「それがどうした」
智「ん…っ」
松兄ぃの肩を押す俺の手なんて簡単に掴むんだ。
俺が抵抗出来ない様に押さえるのがなんとも上手い。
智「んん、ふ…」
おいおい激しすぎやしないか?
店だって言ってるじゃないか。
あ、でもここ個室だった…。
智「ん、ま、松兄ぃ」
兄「ん?」
智「あの女の人、彼女じゃないの?」
やっと押し退けた。
ぷはっと一呼吸して、漸く言葉を発した。
兄「んぁ?あ~元カノだ」
智「元カノ?」
ほう?
智「でもキスしてたじゃん」
兄「まあ、あれは事故みたいなモンだ」
智「ふうん?」
そうは見えなかったけどな。
松兄ぃの家だったら完全に押し倒してるんじゃないかと言う程の激しさだったぞ?
智「なんで別れたの?」
兄「あ? ああ、それは…」
少し苦笑いをした。
なんだ?話し辛い事なのかな。
兄「お前が原因だ」
智「はっ?」
なんだなんだ?
俺、松兄ぃの邪魔なんてしてねえぞ?
兄「お前に出会う前から付き合ってた。そうだな、3年位か」
智「え、3年も…。てか彼女いたんだ」
兄「ははっ、だけどお前に出会って」
智「うん」
兄「アイツに寂しい思いをさせちまった…。俺が、お前の事を好きだと気付かせたのはアイツなんだ」
智「え?」
初めて会った瞬間から俺に興味が湧いた。
そんな松兄ぃは、いつも頭の中で俺を思い出していたんだ。
そうすると、彼女といてもボーッとする事が多くなり彼女が不審に思い始めたのだと言う。
兄「浮気してるの?って聞かれてさ」
智「うん」
兄「そんなのしてなかったから、違うって言ったんだ」
智「うん」
兄「じゃあ、好きな子でもできたの?って聞くから」
智「うん」
兄「何を言ってるんだ、そんな女は居ないって、言ったんだけどさ…」
すると彼女は俺の話を持ち出したらしい。
ソイツは男だろうと鼻で笑う松兄ぃに、彼女は真剣な眼差しを向けた。
兄「貴方はあの子の事が好きなのよ!ってね。そんで、出て行った」
智「何やってんだよ…。バカじゃねえの…」
あんな綺麗な彼女が居ながら、なんで、寄りによって男の俺を好きになったんだ。
松兄ぃも、見かけによらず結構なバカだったんだな。
