テキストサイズ

不透明な男

第13章 胸裏



兄「そうだな。馬鹿だ(笑)」

智「…好きなんでしょ?」

兄「あ…?」


あのキスには愛が見えた。
知らない人が見たら、恋人だと確実に思うだろうキスだった。


兄「あ~好き?いや、なんて言うか…」

智「罪悪感とかでキスした訳じゃ無いでしょ?自分がしたかったんでしょ?」


隣に座る松兄ぃを上目遣いで見上げて聞く。


兄「いや、え~…?」

智「松兄ぃってそう言うトコ、鈍いよね」

兄「は?」

智「おれでも分かるのに、なんで自分で分かんないの」

兄「ははっ、お前よりマシだろ」


笑う松兄ぃは、少し照れ臭そうだった。


智「これでおれも安心だよ」

兄「ん?」

智「だって、ずっとおれのケツ追いかけてても仕方無いじゃん」

兄「ケツってお前」

智「ホントの事でしょ」

兄「う、まぁ」

智「再会出来て良かったね」

兄「ん…、そうかも、な」

智「ふふっ」

兄「こら笑うな」


やっと松兄ぃにも春が来たみたいだ。
そろそろ結婚してもおかしくない歳なんだし、しっかりしてもらわなきゃ。


智「これで、心置きなく引っ越せるよ」

兄「引っ越すのか?」

智「うん。だから松兄ぃが泣いちゃったらどうしようかなーって」

兄「泣くか」

智「ふふっ、大丈夫そうだね」


俺は笑いかける。
松兄ぃも笑うだろうと思って顔を見たんだ。
だけど、松兄ぃは笑わなかった。


兄「…大丈夫なモンか。寂しいに決まってるだろう」

智「松兄ぃ…」

兄「お前は寂しくないのか?」

智「そりゃ、寂しいよ…」


そりゃ寂しいさ。当たり前だろう。
だけどもう会えないよ。

皆俺の心配をしてくれた。
なのに俺は、はぐらかしてばかりで何も本当の事を言っていない。
ずっと騙してたんだ。
今も、もう一人の俺を隠して嘘をついてるんだ。


兄「本当に、お前の涙は綺麗だな…」


うっかり涙が溢れた。
そんな俺を、松兄ぃはぎゅっと抱き締める。


兄「泣き虫だな…。そんなんじゃ安心して離してやれないだろう?」

智「もう泣かないよ。今日だけだ…」


よしよしと俺の背を擦り、頭をぽんぽんと撫でる。

この大きくて温かい手が、俺は大好きだったんだ。

油断したらうっかり溶けてしまいそうになる。


でももう甘えられないんだな。


やっぱ、少し寂しいや…



ストーリーメニュー

TOPTOPへ