
不透明な男
第3章 自覚の無い男
翔「まぁ、原因がわからない以上もう少し入院していただきます。」
智「えぇ?」
翔「…今すぐ退院したところで何処に帰ればいいか分からないでしょ?」
智「あ…」
そうか
おれ、自分の家もわかんないんだ…
智「ねぇ、おれ、思い出せるの?」
翔「え…」
智「何も思い出せなかったら、おれどうなっちゃうの?」
俺はすがるように研修医を見た。
この櫻井翔という研修医は、堅苦しい話し方をしてくるのに、なぜか安心する。
初めて会う人間に弱音なんて聞かせたくなかったが、この男が医者だからだろうか、つい本心が滲み出てしまった。
俺の心細い感情が顔に出ているのか、翔は優しく微笑み俺を見る。
翔「大丈夫ですよ。僕が一緒に頑張りますから。」
きっと思い出せるから安心して下さい。と俺を慰めるように優しい口調で話した。
